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- 宴 - ケフカを倒し世界に平和を取り戻した一行は、自分たちにささやかな宴会をする権利を認めた。命懸けの戦いを勝ちぬいたのだ。少しくらい気を抜いても許されるだろう。確かに世界はまだ混乱の極みにあり、彼らの力はまだまだ必要とされている。しかし、世界に希望をもたらしたのは彼らなのだから。 「てなわけで乾杯。」 ロックの音頭でセッツァー秘蔵のワインの注がれたグラスの群れが傾く。口々にお互いの労苦を労わる言葉と酒を絶賛する言葉が飛び交う。 物資の少ない中で主にマッシュの手によって作られた料理の数々が取り分けられ、異様に大きなケーキが切り分けられた。ケーキなど食べた事のないガウが手を生クリームだらけにして嬉しそうに食べるのを、マッシュがフォークを使うようにと聡し、リルムが軽い嫌味を言う。 「そんなこともできないの？」 年下の女の子に言われ、ガウは張りきってフォークを握り締めるが、なかなか口に運べない。そんな様子を微笑ましく見ながら、ティナとセリスもケーキに夢中になっていた。帝国で育った二人にもケーキは初めての味だった。 「ケフカが良く食べていたから、人間の食べるものじゃないんだと思っていたわ。」 と言う台詞はともかく、自分の傑作の好評ぶりにマッシュも満足そうだった。 甘いものはそんなにと言う男どもの分まで女たちが食べてケーキが跡形もなくなり、 ガウとリルムのお子様二人が満足に食べて一足先に退散して寝室に向かう時間になると、段々宴会は宴会らしくなっていた。 まず、ケーキに夢中になっていたため酒の進みは遅かったセリスは、ようやくグラス一杯を飲み終えると、顔を上気させてロックにからみだした。 「私、ロックに会いたくて無人島からいかだに乗って漂流までしたのに、あなたはのほほんとお宝捜しなんてしてたのよね。」 流石にむっとしたロックが抗弁する。 「俺は、レイチェルのために…。」 「そうよね、いっっっっっっつもレイチェルなのよね。」 それからいかにロックの行動がいつもレイチェルのためなのかを延々と口説き出す。 その後ろでは、カイエンとストラゴスがシャドウをつまみにして日本酒を開けていた。シャドウはケフカの塔の崩壊中、拗ねて残ろうとしたところを愛犬に助けられ、ついでに覆面まで取られて、娘との感動の再会を果たし、現在は重症を押してまで宴会に参加させられていた。 「そういうわけでワシは育児ノイローゼから逃げ出したこの男の代わりにリルムを育てたわけゾイ。」 「あんなに可愛い娘から逃げ出すとは、酷い父親ですなあ。」 「まったくじゃ。今更返せといわれてものお。」 さらに隣りのテーブルを囲んでモグ・ウーマロ・ゴゴの３人が飲んでいたが、常人には理解できない会話がくりひろげられていた。 「クッポポー。」 「クッポポー。」 「ウガー。」 「ウガー。」 多分、楽しいのであろうとモグの表情から察せられる。 一方、中央のテーブルでは『ロックの行動はいつもレイチェルのためなのよ』攻撃からロックがほうほうの体で逃げだし、セリスの相手はセッツァーと静かに酒を味わっていたはずのエドガーに代わっていた。 「美人の相手を置いて逃げるなんてロックはひどいな。」 「そうよねえ。でも、ロックはレイチェルの方がいいのよ。金髪よりも黒髪なのよ。でも、私、髪は染めたくないし。」 「そう言う問題ではないと思うが…。」 ロックはというと、あまり酒の進んでいないティナにセッツァーと二人で甘くて飲み口のいい酒を勧めていた。 「セリスがあんなにお酒に弱かったなんて…。」 「意外だよね。」 「そうね。でも…。」 「うん。」 「可愛いわよね。」 さんざん『ロックの行動はいつもレイチェルのためなのよ』攻撃に晒されつづけたロックとしては容易に頷けなかった。 そう言うわけで、ガウとリルムを寝かしつけ、ついでにつまみの追加を持ってマッシュが宴会場に戻ると、そこは酔っ払いの巣窟と化しつつあった。そのまま兄の隣りに座り込む。しかし、兄との会話が成立する前に、セッツァーに『今持ってきたつまみにはどの酒が合うのか、そもそも酒にはつまみがいるのか』という講義を延々とされ、兄は兄で美人の酔っ払いに絡まれて動けなかった。 「エドガーの髪は綺麗よね。きちんとトリートメントされてて。私なんて、戦場には行かされるし、誰も手入れのしかたなんて教えてくれないし。大体、戦場なんてケフカが行けばいいのに、あの男、髪の手入れが大変だなんて嫌がって行こうとしないのよ。ねえ、聞いて。ガストラ皇帝ってば私とあの男を結婚させようとしていたのよ。しんじられない。最低よね。あの男、ご飯に砂糖掛けて食べるし、コーヒーに角砂糖10個も入れてあげくに苦くて飲めないなんて言うし、化粧品代に月１００，０００ギルも使って衣装代に５００，０００ギルもかけているのよ。ナルシストだし。センス最低だし。あんな男の嫁になるくらいなら、エドガーの方がましよ。」 ケフカと比べてマシと言われて褒め言葉と思う人間はいないだろうが、若き国王は嫌な顔一つ見せず、常勝将軍は自分の失言に気付きもしなかった。 「それで帝国を裏切ったのに、スパイだなんて言ってきてさ。どっちがいいかなんて、ちょっと考えれば分かるじゃない。帝国はプードルみたいな皇帝とケフカ。レオ将軍はいい人だけど、あの髪型がねえ。対してリターナーには若い男がいっぱい。ロックもマッシュもセッツァーも美形だし。私にしてもティナにしても、どっちにつくかなんて一目瞭然よ。」 自分の名前が美形の羅列から抜けている失礼な事実に若き国王は嫌な顔一つ見せず、常勝将軍は自分の失言に気付きもしなかった。 「エドガーっていいやつだよな。」 ロックがしみじみと言う。 「セリスは、美人で可愛いもの。」 ティナが答える。 その頃人間外のテーブルは人間の理解の範疇外の会話で盛り上がっていた。日本酒を囲んだテーブルも盛り上がっていたが、やはりここも人間の理解の範疇外の会話になりつつあった。 「やはり日本酒には塩だ。」 「クッポポー。」 「ワインには砂糖だ。」 「クッポポポポー。」 二つのテーブルは一つになっていた。 中央のテーブルに異変が起きた。これまで穏やかにセリスの話を聞いていたエドガーがいきなり振りかえった。そして、たまたま後ろの席に座っていたモグをじっと見つめ、 「かわいい。」 と、叫びながら抱きついた。 「くぽー。」 困惑して短い手足を振りまわす姿は確かに可愛かった。 「兄貴は酔っ払うと可愛いものに抱きつくんだ。」 弟が冷静に説明する。 「…なんですって。」 マッシュの言葉にセリスの顔色が変わる。 「それのほうが私より可愛いって言うの？」 エドガーは頭だけ振り返り、自分に向かって抗議するセリスと弟を見た。あっさりとモグを放り投げる。そして、 「かわいい。」 と、マッシュに抱きつく。 「…し、死ぬかと思ったクポ。」 オートボウガンやら回転ドリルやらの重機器を片手で振り回す腕力から解放されたモグが心底からつぶやくと、周りから歓声があがった。 「そうか、しにそうだったか。」 「それは、いい。」 何が楽しいのか異様に盛り上がっている。 一方セリスは全身からサンダーを発しそうな勢いで怒っていた。 「わたしよりそれの方が可愛いって言うの？」 エドガーがすかさず言う。 「かわいい。」 「よくみなさいよ。筋肉だるまじゃないのよ。それよりも私って可愛くないの？可愛くないわけ？ひどいわ。」 テーブルに突っ伏す。 「あんまりよお」 と喚きつつ、泣き出す。泣き上戸だったらしい。 「そうだ。あんまりだー。」 無意味な合いの手が周囲から起こる。 「エドガーが酔っ払うなんて珍しいわね。」 ティナが言う。 「そうだな。初めてみたよ。」 ロックが答える。 「かわいいわね。」 これまた、ロックには答えられない。 泣き出したセリスを全く無視してマッシュに抱きついたままのエドガーに、話相手を取られたセッツァーが文句を言った。 「お前等、変。」 「そうかなあ。」 マッシュが全く動じずに答える。 「変だ。普通の兄弟ってのはそんなにべたべたしない。」 「そうかあ。」 マッシュが適当に答えていると、向こうのテーブルから口出ししてくる。 「いかさましに言われたくないぞ。」 「俺はギャンブラーであって、イカサマをしたことはない。」 泣いていたはずのセリスが復活する。 「イカサマされた事はあってもね。」 「すぐに見ぬいただろうが。」 「そうだっけ。」 「だいたい、お前に言われたくないぞ。はじめから魔法を使える体質異常に。」 「ひどい。それならティナはどうなるのよ。ひどいわ。」 再び泣き出す。 ティナの手のグラスが音を立てて砕ける。心配したロックが覗き込むと彼女は小刻みに震えていた。 「…わたし、変？」 「いや、そんなことはないよ。」 慌ててフォローしようとするが、ロックがそのような事が得意なわけがない。フォローのプロは弟に抱きついていて使い物にならず、ロックは自分の力不足を自覚しつつ必死に言った。 「そもそもここに普通の奴なんていないしさ。魔法を使えるなら、リルムやストラゴスもそうだし、客も来ないのに飛空挺にギャンブル場なんて作っている奴も居るし、元列車強盗もいるし、フィガロ兄弟なんてあのとおりだし。」 「高貴だからな。」 弟の腕の中からすかさず兄が言う。 「ワシは普通だぞ。」 カイエンがえらそうに胸を張る。 「トレジャーハンターを名乗る泥棒もいるしな。」 「俺は泥棒じゃない。」 セッツァーの言葉にロックが抗議しているすきをついてティナはますます震えていった。 「酷い…。酷いわ…。」 そして、いきなりトランス状態にはいり、飛んでいった。 「たーまやー。」 掛け声がそれを追う。 数秒後、飛空挺の天井に穴をあけて戻って来たティナは言ったものだった。 「ごめんなさい。わたし…、たたかえない。」 狂乱の夜が、ゆっくりと更けていった。 注：この時ティナはもうトランスできないというつっこみは不用です。ほほほ。 |