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- 呪縛 - 「オレが、守ってやる。」 それは、ずっと欲しかった言葉。 けしてもらえる事はないと、あきらめていた言葉。 自分が欲しがっているなんて気付いてもいなかった言葉。 思いもよらない言葉。 ずっと、自分の力で生きていくように強制されてきた。 自分の力で立たなければ、生きてなんかいけなかった。 祖国の為に。戦い続けることだけを強制された。 それだけの力が、私にはあるのだからと。 誰かに守られた事なんて一度もない。 祖国を、守るためだと信じていた。 他国の者にどう言われようとも、部下達に恐れられようとも。 祖国を守るためならしかたがないと思っていた。 けれど。 祖国に利用されているだけだと、気が付いた。 もしかしたらと思いつつ、ずっと否定してきたけれども。 皇帝が祖国を守るためではなく、ただ他国を侵略しているのだとようやく気がついた。 どうでもよくなった。 何もかもどうでもいい。 ただ、戦う事はもう出来なかった。 私は、戦う事しか出来ない。 自分で判断など出来ず、ただ信じる人の命じるままに戦うしか出来ない。 何が正しいのか、私にはわからない。 自分が何をすればいいのか、私にはわからない。 誰かに決めてもらわないと、私は何も出来ない。 「もう、皇帝のためには戦えない。」 それは、私の一生での初めての反逆。 自分自身で為した初めての判断。 そして、それは最後のものとなるはずだった。 あの人が現れなければ…。 「オレが守ってやる。」 それは、呪縛の言葉。 私はもう、捕らわれてしまって逃げられない。 この人の為に生きていきたいと思った。 この言葉が私のためではないとしてもかまわなかった。 世界が崩壊して、私はシドに助けられた。世界中で生き残ったのはもう私達二人だけかもしれない。そう思った。 けれども…。 会いたかった。 どうしても、会いたかった。 ロックに会いたかった。もう一度、あの言葉を言って欲しかった。 それ以外どうでもいい程に。 ただ、会いたかった。 そんな私の気持ちを、シドはとうに知っていて。私は、元気になったとはいえ病みあがりのシドを残していかだに乗った。 ツェンの町に着き、沢山の人がいることが泣きたくなるほど嬉しかった。きっとこれなら、ロックも生きている。そう思った。 マッシュと再会出来て、尚の事そう思った。 ロックの手がかりは全くつかめず、途方に暮れる私に、マッシュはフィガロに向かおうと言った。フィガロ王であるエドガーは、必ずフィガロにいるはずだから。 そう言われて、私は自分が目覚めてから数ヶ月、祖国の事を考えもしなかったことに思い当たった。物心ついた時からずっと祖国の為に戦ってきたのに。 将軍という地位にすらいたのに。やはり私にはレオ将軍のようにはなれない。彼の期待にはこたえられない。今の私には、祖国よりもあの人の方が大事だ。 「いいんじゃないか。別に。」 あっさりとマッシュが言った。 「オレも、国よりも兄貴が大事。取り敢えず兄貴が無事ならあとは、まあ、どーでもいいとは言わないけどさ。」 真剣に悩んでいるのがバカバカしくなるくらい、簡単に断言してくれる。 「大体、故郷なんてのはさ、大事な人がいる所って意味だろう。オレにとっては、兄貴が大事で、ま、もちろん他にもばあやとかいるし。だから故郷が大事なんだよ。セリスは、ベクタにはもう誰もいないんだろう。じゃあ、仕方ないよ。」 「そんなもの？」 「そう。」 少し、心が軽くなる。 「さ、兄貴に会いに行こう。」 「うん。」 そのマッシュの大事な兄貴は、国の為に必死になっていた。ようやく再会できた弟に、知らない振りをしてまで頑張っていた。 寝る間も惜しんで、私達までこき使ってがんばるエドガーに、つい、何故そこまでがんばるのかと訊いてしまった。彼は、何故訊かれるのかわからないという表情を一瞬垣間見せてから答えた。 「私の国だからね。」 シンプルな解答。 勿論、エドガーのことだから、 「この国に住む美しいレディ達の為に尽くすのは当然だろう。」 などと付け加える事を忘れはしなかった。 この人は、国に捕らわれてしまっているのかもしれないと、そう思った。 もし、と考えずにいられない。 もし、ガストラ皇帝が、この人の半分でも国のためを思ってくれたら。本当の意味での国のためを考えてくれていたら。そう考えずにはいられない。 祖国は、何処で間違えてしまったのだろう。 ガストラ皇帝も、始めはベクタのことを考えていたはずだった。 小国で貧しかったベクタを大きく強くするために、国の為に、尽くしてきたはずだった。 レオ将軍のような人も代々皇帝に仕えてきた。 それなのに。 どこで、狂ってしまったのだろうか。 コーリンゲンでセッツァーに再会した。コーリンゲンに行けは、ロックに会えると思ったのに、いたのはセッツァーだった。 飲んだくれているセッツァーに、ロックに会えなかった腹いせもあって思いっきり平手打ちをしてしまった。すると、飛空挺に案内してくれると言い出した。やはり、変な人だ。 コーリンゲンにはロックの愛する人が眠っている。あの言葉は、私にではなく、その人に向けられたものだ。守れなかった事が、ロックを捕らえ、ロックの言葉が私を捕らえている。私達はみんな、何かに捕らえられているのかもしれない。 ティナはモブリスで子ども達と暮らしていた。しっかりと自分の場所を見つけたティナを私はひどく羨ましく思った。似たような境遇なのに、むしろ幻獣の血を引いている分、私よりも大変なはずなのに、ティナはちゃんと自分の足で生きている。 ひどく、うらやましくて。 セッツァーの親友のお墓で、セッツァーが、自分の夢は空を飛ぶ事だと言っていた。 エドガーが、オレ達の夢をかなえようと言っていた。 けれど。 私は、私の夢がわからない。 ロックに会いたい。あの言葉をもう一度聞きたい。 それだけでここまで来たけれども。 私にも、ティナのように自分の足で歩いて、自分の夢をつかむ事ができないだろうか。 ケフカの気まぐれな裁きの光に振り回されながら、崩壊しつつある世界の中で、人々は逞しく生き延びていた。私にもできないだろうか。誰かに頼るでなく、守られるのでなく、強制されるでなく。自分で判断し、自分の力で生きていく事が、出来ないだろうか。 ティナを見ていて、そんな事を漠然と考えていた。 漠然と。その時はまだ、はっきりとして形にはなっていなかった。自信もなかったし、どうしたらいいのか見当もつかなかった。 けれど、思いついてしまったその事は、頭の隅のほうに住み着いてしまった。 カイエン、リルム、ストラゴス、シャドウ、モグ、ガウ、仲間達みんなに再会した。みんな驚くほど元気で、みんなそれぞれの道を歩いていた。ケフカを倒すために再び同じ道を歩く。けれど、ケフカを倒した後はみんな再びそれぞれの道を歩くのだろう。迷うことなく。 そんな仲間たちが誇らしく、頼もしく、そして羨ましかった。私も、自分の道を探したい。そんな思いが私の中で大きくなっていった。 そして、ロックに再会した。 ロックはレイチェルを生きかえらせるための魔石を捜していた。その魔石をロックが手にした、まさにその時に私達はロックに追いついた。 「…ひびが、入っちまっているけどな。」 ロックが寂しそうに笑う。 そして魔石は、ほんの少しだけ奇跡を見せた。レイチェルは僅かな時間生きかえり、ロックに言葉を残した。 「ありがとう」と。 ずっとロックに会いたかった。ロックに会うためだけに、あの無人島を出てきた。そのロックは、レイチェルの為に魔石を探していた。私ではなく、レイチェルに会おうとしていた。 私は、当たり前のことのように、ロックがレイチェルの為に魔石を探していたという事実を受け止めていた。ロックもまた、呪縛から逃れたいのだと、私は知っていたのかもしれない。 ロックが、ゆっくりと歩いてくる。近付いてくるのを待ってから、私は精一杯の笑顔で言った。 「レイチェルさんって素敵な人ね。」 「ああ…。」 ロックが辛そうに言う。 「ロックが忘れられなかったのも、わかる。」 「うん。」 「私じゃ、全然かなわない事も、わかった。」 「セリス、それは…。」 ロックが抗議するのを、手で制する。 「いいの。」 ロックの顔を見ていると辛いので、背中を向けた。 「…私、あなたに会いたくて、シドのいる島からいかだで出発した。あなたに会って、また、守ってやるって言って欲しくて、旅を続けた。けれど、それじゃいけないんだって気がついた。」 空を見上げる。空はまだ曇り空で、世界は崩壊し続けている。けれど。 「そんなんじゃ、ロックには迷惑なだけだしね。」 思いきって振りかえる。ロックの目をはっきりと見て、言う。 「私、自分の力で歩いてみる。ティナみたいに、自分の夢を自分で捜してみる。」 なかなか見つからないと思う。そもそもどうやったら仕事を見つけられるのか、とかそんな基本的なことさえ私にはわからない。 けれど、エドガーに相談すれば私でも出来る仕事を紹介してくれると思うし、マッシュやカイエンならいろいろな事を教えてくれると思う。ティナの所に暫く居候させてもらう事も出来るだろう。みんなが、いるから。仲間達に手を貸してもらいながら、私は私なりに生きていくことが出来ると思う。 「ロック。…ありがとう。」 レイチェルの真似、と言うわけではない。ロックには言っておきたかった。ロックのおかげで、あの言葉のおかげで、私はここまで生きてこられた。 そして今、私はやっと歩き出す事が出来る。 |