- Ｒａｉｎ - 　激しくもなく、微かでもなく、降り続ける雨は絶え間無い音を響かせていた。 　途切れる事の無い雨音は、まるで永遠に続くかの様だ。 　朝、目が醒めた時には既に降り始めていた雨は、どうやら今日は一日中降り続けるつもりらしい。 　スコールは窓の外を眺めながら、小さく嘆息を漏らした。 　雨の日は、嫌いだ。 　延々と続く雨音は、姉を待ち続けていた日々を思い出させる。 　姉がいなくなった日に、雨が降っていたという記憶は無い。 ただ、雨に日の軒下で感じた寒さと、そこから見える鮮やかな緑色の葉が雨の雫の重みで頭を垂れ、 やがて弾けた瞬間とが、記憶の中に鮮明に残っている。 　その時に、自分は置いていかれたのだと感じたのだ。 　なんの脈絡も無い光景が、何らかの感情と強烈に結びついている事がある。 例えば、事故を目撃したときに取り落とした傘。その傘が倒れている光景に、何故か恐怖を連想するという様に。 　頭を垂れた鮮やかな色の葉が雫を落とす光景に、覚える寂寥感。 　自分は雨音と薄ら寒さとに、言い様の無い寂しさを覚えるのだ。 　スコールは視界から雨を隠す様に、カーテンを引いた。カーテンを引いても、雨音は消えない。 室内の薄ら寒さと、物音のしない空間が、寂寥感を助長しているかの様だ。 　明かりも付けずに、スコールはベッドに横になった。音を遮断するかの様に、目を閉じる。 消えない雨音に、抵抗するように両手で耳を塞いだ。 　まるで、子供の様だ。 　スコールは自嘲気味に笑みを浮べた。 　彼が見たらきっと、ガキみてえ、と優しく笑ってくれただろうに。 　ひたすらに姉を待ち続けた子供は、どうすれば良かったのだろう。 　頭の何処かで、姉は帰ってはこないのだと知りながら、待つほかにどうすれば良かったのだろう。 　置いていかれたのだと、自分は独りなのだと、諦めれば良かったのか。 　ひたすらに待ち続けるほかに、どうすれば…。 　突然鳴り響いた電子音に、スコールは弾かれた様に身体を起こした。音の源に目を向け、ゆっくりと手を伸ばす。 「…もしもし？」 　耳にあてた受話器の向こうから、微かな雨音が聞こえる気がした。 『スコール？　今、平気？』 「ああ。どうした？」 『うん。あのさ、夕食一緒する約束してただろ？　雨に降られてびしょびしょだし、家に寄って雨宿りしてから帰ることにするから。だからさ、先、食べてて』 「…迎えに行くよ」 『え、いいよ。雨だし。母さんに電話したら良いって言ってたから、大丈夫だって』 「迎えに、行くよ」 『…そう？　んじゃさ、俺ん家で待ち合わせしよーぜ。母さん、たまにはスコールも連れておいでって言ってたし。三十分くらいでバラムの駅に着くと思うから』 「ん、判った」 『それじゃ』 　通話の切れた受話器を戻し、スコールは笑みを深くした。 　迎えに行きたい。 　そう言いたかった事に、彼は気が付いていたのだろうか？ 　スコールはベッドから立ち上がると、椅子の背凭れに掛けられた上着に手を伸ばした。 　彼の声が、耳に残っている。雨音は、今は優しい。 　暗い部屋から出ると、寒さを忘れていた。 　帰って来てくれないのなら、自分が迎えに行けば良い。 　今の自分は、何処まででも探しに行ける。 　外では雨が、穏やかに降り続いていた。

　

雨の日に唐突に思いついたものです。 安易というか、誰でも思いつきそうなネタかも（笑）。

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