- Ｄ・Ｍの事情 - 　週に四回、寮に忍び込んでくる存在を容認しているのは冬が近付いているからだ、と僕は思っている。 　毎年の様に気温が下がるに連れて悩まされる寝不足は、今年は未だ問題になっていない。寝不足が原因で体調を崩し医務室のお世話になったり、昼休みにスネイプ先生の研究室にある暖炉の前のソファーで仮眠を取らせてもらう、等ということはなるべくなら避けたい。 　だから僕はその存在を容認しているのだ、と思う。 　元々深夜の訪問は金曜と土曜だけだった。何かの折に冬は寒くて寝不足になる、という話になって、その後彼は水曜日と日曜日も来るようになった。実はその日に睡眠を確保している等とは口が裂けても言えないが、それを彼に知られていないとはあまり思えない。 　何時の間にかやって来て、他愛無い話を少しだけして、それから眠りにつく。そして皆が起きる頃にはもういない。 　それだけの関係だと思っていたから、一月ほど経った頃に彼が真剣な顔をして僕に質問をした時、僕はどう答えれば良いのか、正直なところ判らなかった。 　僕のこと、どう思ってる？　君にとって、僕って何？ 　その質問に対して咄嗟に口を出た僕の答えは、彼の予想と違ったらしい。暫く固まった後、漸く覇気の無いおやすみという声を搾り出し、彼はベッドに沈み込んだ。その日は隣から聞こえる溜息が気になって、僕はなかなか寝付けなかった。 　その時のことを思い出し、僕は深く溜息をついた。ちょうど、あの日の彼と同じように。 「溜息なんてついてると、幸せが逃げるわよ？」 　人の少ない図書室の一角で、本を広げたまま考え事に耽っていた僕は、頭上から聞こえてきた声に顔を上げた。 　視線の先に入ったのは予想通り、彼の友人の一人であるハーマイオニー・グレンジャー。微かに眉を寄せたものの、僕の口からは特に侮蔑の言葉は出なかった。 　ポッターが僕の部屋に来るようになってから、僕は昼間はなるべく彼らと顔を合わせないようにしていた。会ったとしても、特に以前の様に侮辱したり嘲ったりということはない。 　なんというか、その必要を感じなくなったというか、わざわざそうしようという気が起こらない。 　それが何故なのか、追及するのはよくないと頭の何処かで警鐘が鳴るので、僕は敢えてそのことは考えない様にしている。 「ハリーもここのとこ溜息ばっかりなのよ。鬱陶しいったらない」 　許しも請わず、グレンジャーが僕の前の席に腰を下ろす。何処か面白そうといった類の笑みを浮かべて机の上に肘をつき、組み合わせた手の甲に顎を乗せた。 「友人の割に、随分な言い草だな？」 　馴れ合う気は無いが、特に追い払おうとも思わなかった。 　ポッターはどんな意図があってあんな質問をしたのか。あの回答で溜息をつくのならどんな回答を欲していたのか。彼女なら判るのかもしれないと、少しだけそう考えたことは否定できない。 「だって、何も話してくれないし。……何かあった？　……ハリーと」 　彼女のその台詞に、特に僕は驚かなかった。ここ一月、僕とポッターは些細な衝突すら起こしていない。それどころか、会えばポッターは穏やかに挨拶をしてくる。そんな状況で、常にポッターと行動を共にしている彼女が僕らの関係の変化に気が付かない等ということが有り得るだろうか。 　それでも、簡単に彼女に何もかも話してしまう、というわけにはいかない。迷う様に視線を彷徨わせた僕に、彼女が小さく笑った。 「よければ相談に乗るわよ？　勿論秘密は守るし」 　促すようなその言葉につい頷いてしまったのは、彼女ならポッターの側の事情に詳しいかもしれないと思ったからだ。それが判ればこのすっきりしない状況をどうにか出来るかもしれない。 　打ちのめされたかの様な、何処か沈んだポッターの溜息が耳から離れないからでは決してない……と思う。

　

続きます。 次はハーマイオニー視点。 ドラコがハリーを示すのに彼にするか奴にするかを迷ったのですが、どっちだろう。 きっと綺麗な英語を話すのだろうなと思うのですが、原書をみても英語が苦手なのでよく判らない…（悲）。 Ｄ・ＭなのかＤ．ＭなのかＤ．Ｍ．なのか、どうでもよさそうな事でこっそり悩んだのですが、 そもそも日本語のなかに英語表記のものをいれようとする事自体が間違っているのよ、ということで開き直ってみました。 ある日こっそり点の位置が変わっていたりしても見なかったことにしてやってください（笑）。

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