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- Ｈ・Ｐの憂鬱 - 自信を持って好かれていると思っていたわけじゃない。……多分。でも、夜に遊びに行っても大して嫌がられないし、一緒に眠ったりもしてるから、嫌われているわけではないのかもとは思ってた。 一大決心して訊ねたのは、好きとは言ってくれなくても少なくとも嫌われてはいないことを確かめたかったから。勿論、好意を持ってくれているのが理想だったけど。それがあんな結果になるなんて……。 どう考えれば良いのか、もうわかんないよ。 「ハリー。こう言っちゃ何だけど、鬱陶しいんだけど」 本日何回目かの溜息をついた僕に、遂に思い遣りだとか親切心だとかを放棄したらしい親友が同じく溜息をついた。 「……やっぱ鬱陶しい？」 「うん。かなり」 何も話さない僕に、いい加減処置無しといったところなのだろう。遠慮の無いロンの台詞に、僕はソファーの上で膝を抱えた格好のまま顔を上げた。 「でもさ、一人で落ちこんでるのって寂しいと思わない？」 「まあ、そうかもね」 暗い空気を背負ったまま談話室で落ちこんでいる僕が、隣を陣取っている状況を遂に諦めたらしい。ロンががっくりと肩を落とす。だって、一人で落ち込んでると何処までも落ち込めそうなんだもん。三日も付き合わされてるロンには悪いけど、こうして時々会話してると気が紛れるし。 ぼんやりとそんなことを考えながら、再度膝に顔を埋めて落ちこみ態勢に入ろうとしてた時、談話室の扉が開いた。軽い足取りで入ってきたのはもう一人の親友であるハーマイオニー。彼女は何故か上機嫌で、僕の姿を見つけるとその瞳の輝きを増した……様な気がした。 「ハリー、相変わらず落ち込んでるの？」 「お蔭様で」 何がどうお蔭様なのかはともかく、楽しげな彼女が何処か恨めしく思えて、僕は低く暗い声音で返事をした。それに対して、何故かハーマイオニーは満足そうににっこりと笑みを浮かべた。それから僕とロンの座るソファーに近付き、彼女が僕の耳元に顔を寄せる。内緒話でもするのかという行動に、僕は思わず聞く態勢をとっていた。 「湯たんぽなんですってね？」 「……っ何処でそれを！？」 耳元で囁かれた言葉に、僕は思わず声を上げた。何処でも何も、僕が何も言ってないのだから誰から聞いたかなんて一目瞭然、訊く必要も無いんだけど、人間思わず出る言葉ってあるよね……。 その僕に対して、彼女は楽しげに再びにっこりと笑った。 「場所を変えよう」 がっちりと手を取り、ハーマイオニーの顔を見る。ロンが顔を顰めたような気がしたけど、そんなことに頓着している余裕はない。 「いいわ」 軽やかに答えたハーマイオニーを伴って、僕は談話室を後にした。 「詰る所僕って夜も温か手間いらず簡単にベッドが温まり自力で移動するので片付けの必要もありませんとかそういう存在だったんだと思う？？」 隠し部屋に入って扉を閉めた途端に一気に捲くし立てた僕に、ハーマイオニーは小さく首を傾げた。 「お坊ちゃんは片付けなんて気にしないんじゃない？ どっちかっていうと、多少ぞんざいに扱っても壊れる心配も無く突然の故障の心配もありません、とか……」 「……ハーマイオニー。君、真剣に聞いてくれてる？」 「少なくともそう言うあなたと同程度には」 「……」 訪れた沈黙。早々に負けたのは当然の如くに僕だった。 「だってさあ、かなり真剣に訊いたんだよ？ 僕のことどう思うって。……通いつめて早一月。好きとまではいかなくても、嫌いじゃないくらい言ってくれないかな、なんて甘い考えだったのかなあ」 またも落ち込みモードに入りしゃがみこんだ僕に、ハーマイオニーが呆れた様に首を振った。 「あー、はいはい。そうかもね」 些か投げやりなご返事。のの字を書くのを中断し顔を上げて見ると、ハーマイオニーが考え込む様に口元に拳を当てていた。 「……ねえハリー。訊いても良い？」 「何？」 「あなたは、どう思ってるの？」 「え？」 「彼のこと、あなたはどう思ってるの？」 突然の質問に、僕は思わず首を傾げた。そんなこと、訊くまでもないと思うんだけど。 「勿論好きだよ」 それでも言葉にすると恥ずかしいもので、僕は顔が紅くなるのを自覚した。穏やかに会話をしてみると、彼は凄く可愛い。もう少し素直になれば良いのにと思うほどプライドは高く、それでいて照れ屋で恥ずかしがり屋。そして、笑うと凄く可愛い。 「……それ、言った？」 「……え？」 「だから、それ、ちゃんと彼に言った？」 「……え？」 「……まさかハリー。あの、プライドは山よりも高くそのくせ照れ屋で恥ずかしがり屋かっこ推定かっこ閉じ、な彼にきちんと伝えなくても伝わってる、なんて思ってたりしてないでしょうね？」 ……ハーマイオニーさん、ご明察。彼のことを良く判っていらっしゃる。思わず拍手したくなる衝動に駆られながら、ふと僕は自分の行動を思い出した。 いつも通り忍びこんだ彼の部屋。意気込みながら登ったベッドの上で開口一番……。 「……言ってない。言うの忘れた」 僕、暫し茫然自失。 僕の返答に、ハーマイオニーが大きく溜息をついた。それから大仰に首を振る。 「ハリー、ハリー、ハリー」 「……三回繰り返さないでくれる？ 余計落ちこむから」 だって、意気込んでたから。今日こそ訊かなくちゃって、物凄く緊張してたから。あれだけ態度で示していれば、とも思うけど、なんといっても相手は彼だ。 なんだかことごとく順番が狂っている僕達の関係は、僕の所為で益々混迷を極めている。 しかし、善は急げだ。折りしも今日は水曜日。 意気込んで立ち上がった僕に、ハーマイオニーがくすりと笑った。 「ねえ、ハリー。良いこと教えてあげましょうか？」 「何？」 「私もね、訊いてみたの。私の事は何だと思ってるって」 そう言って、ハーマイオニーが悪戯っぽい笑みを深くする。 「ロンとかネビルとかは。クラッブとゴイルはって」 「……それで？」 笑顔のままのハーマイオニーに、つい警戒してしまう。果たして彼女は僕を励ましたいのか、それとも僕で遊びたいのか。 「同級生と、同寮生ですって」 どう思う、とでも言いたげに彼女が僕を見る。僕は呆然と口を開き、暫く反応出来なかった。彼女が何を言いたいのか、だんだんと染み込む様に判ってくる。 「……それって」 「それって？」 「それってさ……」 それって、特別ってこと？ 同級生だとか、当たり前の枠で括りたくなかったって、そう捉えても良いんだろうか。 「顔の筋肉が緩んでるわよ、ハリー」 からかうようなハーマイオニーの声がしたけど、やっぱり顔は緩みっぱなしだ。 「良かったわね、脈ありで」 「うん」 「頑張ってね」 「うん。頑張る。ありがと、ハーマイオニー」 にっこりと笑って踵を返す。体当たりする様に扉を開けて、僕は走り出した。 「ハリー、上手くいったら報告してね」 背後から、ハーマイオニーの楽しそうな声が響いた。 グリフィンドールの談話室を通り、自室に駆け登る。途中でロンの視線を感じた。多分一緒に出ていったはずのハーマイオニーが一緒じゃないのが気になるんだろう。でも、僕は僕の事で今のところ手一杯だ。ごめん、いずれはきっと手伝うからね、と心の中で謝った。 抽斗から忍びの地図を取り出し、呪文を唱えて覗きこむ。彼の位置を確認し、再び慌しく談話室を通ると、怪訝そうな顔で幾人かが僕を見ていた。 目指す人物は図書室からスリザリン寮へ移動中。 急ぎ足で歩いていた僕は、廊下の角を曲がって目に入った白金に思わず笑みを浮かべた。人気の無いのを幸いに彼に駆け寄る。僕に気が付いた彼が少し驚いた様な表情で僕を見ていた。 「ちょっと良い？ 大事な話があるんだ」 僕の言葉に彼が戸惑うような表情を浮かべた。それから何かを確認するかのように僕の顔を眺め、視線を床に落とした。少しの間何処か考え込んでいるような様子を見せて、彼が小さく頷く。 「ありがと。じゃ、こっちに来て」 彼の手を取って、廊下を歩く。どさくさに紛れるように握った細く白い手はとても冷たい。廊下に人気が無かった所為か、彼はその手を振り払うことはしなかった。 そこから僕が知っている中で一番近くにある隠し部屋に入り、僕は彼と向き合った。 窓から光が差し込んで、彼の淡い金髪を照らしている。日の光の中で見る彼は何処か新鮮だった。何故か最近は昼間向き合うことが少なくて、僕達が会うのは何時も夜だ。勿論仄かな橙色の明かりに照らされている彼の顔も好きだけど、日の光の中で見る彼もとても綺麗だ。 銀色がかって見えるほど淡い金髪は細く滑らかで、肌は透ける様に白い。色の薄い瞳は光に弱いのか、時折微かに目が細められる。骨格の作りからして華奢なのだろう。ほっそりとした姿と色素の薄い容貌から受ける印象はとても繊細だ。 何時までもぼんやりとしている僕を怪訝に思ったのか、彼が小首を傾げた。白金の睫がゆっくりと瞬く。 僕はゆっくりと深呼吸し、彼を真直ぐに見た。 果たして彼は、なんと答えるのだろう？ 跳ねる鼓動を抱えたまま、僕はゆっくりと口を開いた。 ―――僕は君が好き。……君は？ |
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これで一区切りになります。 後日談のようなロン視点話も載せる予定。 |