- ＳＥＰＩＡ -


　夕食の時間だとゴイルが声を掛けられのは、ちょうど写真を漁っていた時だった。頼まれた写真を探しているうちに懐かしい写真に目移りしていくのはよくあることで、ご多分に漏れず、彼も出てきた古い写真を手にして懐かしんでいるところだった。
「今行くっ」
　どうやら思っていたよりも長々写真を眺めていたらしい。短く答えて立ちあがり、ゴイルは無意識の内に持っていた写真をローブのポケットに入れると、そのまま部屋を後にした。

　大広間は育ち盛りの飢えた生徒で溢れていた。混雑の中、空腹を抱えながらスリザリンの席へと向かう。図書室に行ったドラコが没頭するあまり時間を忘れていなければいいのだけど、とクラッブと話していたゴイルは、後ろから掛けられた声に足を止めた。
「落としものだよ〜」
「うっわ可愛い。初恋の君の写真とかそーいうの？　まさかロリ……」
「無粋だねえ、ジョージ君。恋に年齢は関係ないのだよ」
　振り返ったゴイルは、目の前の光景に咄嗟にローブのポケットに手を入れた。一瞬の後、眉間に盛大に皺が刻まれる。目の前では彼のローブのポケットに入っているべき写真が、人の手から手へと渡っていた。
「可愛い〜」
「お人形みたい！」
「六、七歳くらいかしら。可愛い女の子」
　双子の手からグリフィンドールの女子生徒へと写真が渡り、感嘆の声が上がる。
　写真に映っている少女は、貴族の邸宅を思わせる広間で大人しくソファーに座り、不思議そうに小首を傾げていた。身に付けているものは一目で上等と判るような、レースとリボンをふんだんに使った可愛らしいドレス。そして癖の無い長い髪が、その柔らかな布地の上をさらりと流れている。そのドレスに見劣りすることなくそれを着こなしている愛らしい少女は、お人形のような美少女と形容されるような容貌を持っていた。
　回り回った写真がハーマイオニーの手からロンの手へと渡り、ロンの口からも感嘆の声が上がった。
「うわー、ほんとに可愛い。親戚の子か何か？　そういや君んちも結構なお家だよね？」
「どれどれ」
　暢気にゴイルに訊ねているロンの持つ写真にハリーが手を伸ばした瞬間、固まっていたゴイルは一気に青褪めた。
「駄目だーっ！　ポッターにそれを見られたらドラコに怒られる！！」
　何時もの愚鈍さは何処へやら、俊敏な動作で写真奪取にゴイルが駆け寄る。事の次第を理解したクラッブも加わって、三人の指がロンの持つ写真へと伸びたその時。
「僕が何に怒るって？」
　人垣の中心に向かって掛けられた声に、ゴイルは身を竦ませた。
　人垣の間から姿を現したのは、常に行動を共にしている白金の彼だ。軋む音が聞こえそうな機械的なきごちなさで、今にも泣きそうな顔をしたゴイルが振り返った。
「まさか……」
「あれって……」
　人垣から小さく声が漏れる。ざわめきを無視してゴイルの前に立つと、ドラコは問題の写真に視線を移した。小首を傾げてロンに手を差し出す。促されるままにロンが写真を渡し、無言の遣り取りが行われる。写真に視線を落としたドラコの動きが止まった。
　硬直したドラコを訝りハリーが声を掛けようとした瞬間、ドラコが顔を上げた。今まで見たことが無いような穏やかな笑みを浮かべ、ゴイルへと視線を向ける。その目だけが笑っていない。
「これを、何処で手に入れた？」
「ド、ドラコの母上に頂いた」
「どうしてそれがここに？」
「……ご、ごめっ」
「お前はっ、僕の過去の恥を学校中に広めるつもりかーっ！！」
　ドラコの怒声が大広間に響き渡った。
　怒り心頭の少年が墓穴を掘った事に気が付くのは、怒鳴り疲れた十分後。
　そして。
「ハーマイオニー、皺伸ばす呪文知らない？」
「ポッター、それはこうすればいいのですよ」
「マクゴナガル先生……可愛いのもお好きですか」
　握りつぶした写真が何時の間にかハリーによって救出されていたことに気が付くのは、それから数日後。

　


「渡せポッター、そんなものは闇に葬り去るっ」
「だ〜め〜。要らないんなら僕が貰うからっ」
「阿呆ーっ」
「……あれ一枚灰にしたって、ドラコの母上があの手の写真、アルバム十冊分は持ってたよね」
「今なら書棚一個分くらいあるかも……」
↑後日談（笑）。

ヒュー・グラントのお母様は彼が子供の頃、彼に女の子のドレスを着せて可愛がっていたらしいです。 やっぱり息子でも可愛い子なら可愛らしい格好させて写真に収めておきたくなりますよね（笑）。
これもありがちネタですかね。
…ところで魔法界の写真ってどうやって処分するんだろう。考えてみるとちょっとシュール…？

2003.07.27

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