- Vampire -


　スコールはガーデンの廊下を急ぎ足で進んでいた。
　キスティスからゼルの帰還を教えられたのはほんの五分前。
　やはり子供関係の任務はゼルに限る。クライアントの受けもよくて。などという話を中途で遮って、スコールは食堂へと向かっていた。

　今回のゼルの任務は長期の護衛だった。三人で組んだその任務で、ゼルは富豪であるクライアントの一人娘の護衛をしたらしい。 富豪が抱えていた問題が解決し、娘の安全が確保されて漸く長期の任務が終了。ゼル達はニ週間ぶりにガーデンに帰還した。
　任務明けなら、ゼルはまず食堂にいるだろう。
　はやる気持ちを押さえ、スコールは殆ど走らんばかりに廊下を歩いていた。神経が一点に集中している彼の視界に、周囲の驚いた顔はもちろん入ってはいない。

「スコール、久しぶり」
　食堂に入ってくるスコールに気が付き、遅い昼食を取っていたゼルがにっこりと笑ってスコールに手を振った。
「怪我はなかったか？」
「もっちろん。護衛っていっても、結局今回はなんも起こんなかったし」
「…そうか。明日からは休みか？」
　スコールがゼルの向かいの椅子に座ると、ゼルは食事を再開した。
「うん。スコールは？」
「明後日まで休みだ」
「じゃあさ、明日約束してたバラムの店いかねえ？　報告書は今晩纏めちまうからさっ」
「わかった。明日、十時でいいか？」
「うん」
　約束を取り付けると、ゼルは今度こそ食事に専念した。スコールも食べ終わるのを待つ事にし、黙ってゼルが食事をとるのを眺めていた。


　翌日の夕方、ニ人がバラムから戻ると、キスティスがゼルを待っていた。
「ゼル、ちょっと良いかしら？」
　契約書らしき書類を抱えたキスティスに、スコールは不信そうな目を向けた。基本的に、長期任務の後には数日の休暇が約束されている。ニ週間の任務をこなした後なので、ゼルは少なくとも報告書作成日も含めて四日は休みが取れるはずだ。
「何？　任務？」
　ゼルも不思議そうにキスティスの持つ書類に目を向ける。
「それがね。先日の任務なんけど、先方から…」
「俺、なんかしくじった？」
「違うわ。むしろその逆。あなたお嬢さんと仲良くなったでしょ？　それで、ニヶ月ほど一週間に一度で良いから娘を訪ねてくれないかって」
「それはＳｅｅＤの仕事じゃないだろ」
　スコールが口を挟むと、キスティスがそうなんだけど、と肩をすくめた。
「先方もそれは承知よ。で、護衛任務と云う事で依頼しようかとも思ったらしいんだけど。でも指名だしね。 今回はプライベートなものだったけど、普段から会社の方の依頼で懇意な相手なのよ。それでお願いされちゃってね。 護衛任務と同等、もしくはそれ以上の報酬は出すといってるわ。で、ガーデンの方では護衛任務として処理することにして、お受けしても良いという事になったの。どうする？」
「俺はかまわないぜ」
「ゼル！」
　不満そうに名前を呼んだスコールにゼルが不思議そうな顔を向けた。
「じゃ、お受けするわね。ニヶ月間、他の任務は短期の物を振り分けるから」
　ほっとした様に笑うと、キスティスは持っていた書類をゼルに渡して去っていった。

「なんで引き受けたんだ？　どう考えたって、ＳｅｅＤの任務じゃないだろう」
「…スコール、怒ってんの？」
　スコールの部屋でベッドに腰掛け、ゼルは普段の無表情に微かに不機嫌さを張りつけたスコールを不思議そうに見上げた。
「怒ってない」
　スコールが短く答える。言葉とは裏腹に、声には不機嫌さが滲み出ていた。
「カーシェさあ。…この間の護衛の相手だけど。病気なんだよ。ずっとベッドで寝たままなんだ」
　スコールから視線を逸らし、目を伏せてゼルがポツリと言った。
　そういう事か、とスコールは小さく溜め息を漏らした。
　ゼルは、優しい。懐かれた病気の女の子の小さな我侭くらい、簡単に聴いてしまうだろう。それに、キスティスの様子からすると相当断り難い相手らしい。
「なあ。スコールなんで怒ってんの？」
　腕を組んで見下ろすスコールの服の裾を、拗ねた様にゼルが軽く引いた。主人に怒られた子犬のような上目遣いに、スコールが小さく笑みを漏らす。
「怒ってない。ただ、ゼルとは暫く任務が一緒になりそうもないから、残念なだけだ」
　今度は不機嫌さが取れた声でスコールが言うと、ゼルがくすりと笑った。
「なーんだ。スコール拗ねてたんじゃん」
「だって、可愛い女の子のお願いは聴けても、俺のお願いは聴けないんだろ？」
　悪戯っぽく笑い、スコールがゼルの肩に手を回し額同士を軽く当てる。
「ガキ〜」
　くすくすと可笑しそうに笑い、ゼルがスコールの頭を両腕で抱えこんだ。


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べたべたと仲の良いスコゼルを書く、と言うのが目標（笑）。
しかし、既に敗色が濃い気が…。
ラストまで一応考えてはいるのですけど書いてはいないという状態です。きちんと纏められると良いんですけど…（汗）。
のんびり更新していく予定ですので、宜しければお付き合い頂けると幸いです。

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