主導権を握っているのは、自分だ。 　驚愕と口惜しさに顔を歪ませるその男に、ドラコは視線を向けることもしなかった。 　冷たさを感じるほど無表情に、解雇を言い渡す父の声を聞いていた。 『お父上には内密に……。いいね？』 　そんな言葉に、意味があるとでも思っていたのだろうか……？ 　愚かだ、とドラコは思った。 　身動ぎもせずに直立している男の手が強く握り締められる。それを視界の端で捕らえ、ドラコは不快感を覚えた。 　手首が、首筋が、ぞくりと粟立つ。 　忌々しい。あんな卑しい者に、不快感を味わわせられるとは……。 　だが、主導権を握っているのは、自分だ……。 - 境界線 - 　皮膚を叩く甲高い音が、石造りの廊下に響いた。 「……失礼を」 　困惑の滲んだ声音で、謝罪の言葉が紡がれる。 　階段を上がっていたロンは、ざわめきを耳にして先を歩いていたハーマイオニーに視線を向けた。 「何？」 「マルフォイ……」 　ロンの問いに、肩を竦めてハーマイオニーが答える。ロンと並んで歩いていたハリーが興味を引かれてざわめきの中心に目を向けると、ドラコが白い手首を擦っていた。彼の前にいる上級生が、彼の冷たい視線を受け、困惑した様な表情を浮かべたまま立っている。やり場を失った様に空中で静止した手の皮膚が紅い。どうやら手を叩かれたらしい。 「……いえ」 　小さく答え、ドラコが踵を返す。当事者がいなくなったことでざわめきは次第に治まり、やがて廊下に立ち止まっていた生徒もそれぞれ目的の場所へと歩き出した。 「お坊ちゃまは、下賎のものに触れられるのはお嫌いと見える」 　歩きながら、肩を竦めてロンが呟いた。ハーマイオニーが小さく呆れたような溜息をつく。ハリーは肩を竦め、異論のないことを示して見せた。 　ドラコが偶然にしろ故意にしろ、触れられた事で不快を示すのは珍しくない。あの秀麗な容貌も手伝って、衝動に駆られて伸ばした手を弾かれた者は実は一人や二人ではない。 　育ちの問題なのか、女子生徒は偶然触れた手を弾かれることはない。しかし、男子生徒の場合は遠慮もなく顔を顰められ、その手を弾かれる。汚物に触れられたかのようなその態度は、他寮の生徒からは当初お高くとまっていると不快に思われていた。今もそうではないとは言いきれないが、彼の神経質さを思わせる容貌と慣れとが、その意見を沈下させていた。 　ハリーも不快に思っていないといえば嘘になる。しかし、今では寧ろ呆れていた。共同生活をしていて、他人を撥ね付けていたところで自分が居辛いだけだ。 　それに、何故触れたいなどと思うのだろう？ 　確かに彼は綺麗な容貌をしているかもしれない。だが、それを差し引いても余りある性格の悪さが彼にはある。事あるごとに嫌味を放ち、冷笑と薄笑いで人の神経を逆撫でする。そんな人物なのだ。 　それに、とハリーは小さく微笑を浮かべた。抱き締めたり手を握ったりという触れ合う行為は、ハリーにとっては照れを含みながらも嬉しい行為だ。幼い頃から与えられなかったそれは、ハリーには慣れない物だがそれ故に嬉しいものでもある。 　親愛の情を示すその行為を、彼は何故あんな風に不快に感じるのだろう……？ next

　

妄想が暴走していてその捏造はどうよ、な内容になっております（笑）。 どんなものでもどんとこい、という素敵な方、暫く御付き合い頂けると幸いです。 そして、こういうのが苦手な方は見なかったことに…（汗）。

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