目の前で、白い手が動いた。
「汚い手で、僕に触れるな」
　不快だけを僅かに貼り付けて、表情のない顔がロンに向けられていた。叩かれた手で拳を握り、ロンが顔を紅潮させてドラコを睨みつける。怒りのあまり、咄嗟に声が出ない様だった。
「……っ喧嘩を売ってきたのはそっちだろう！」
「別に。僕は真実を述べたまでだ。……野蛮な人間はこれだから困る」
　胸倉を掴もうとしたロンの行為を蔑む様に、ドラコが肩を竦めた。身体を引き、庇う様に前に出たクラッブとゴイルの後ろに立ち位置を変えると、ドラコが忌々しげに己の手を見た。汚物に触れてしまった後のようなその態度に、ロンの怒りがいや増す。
「いくぞ」
　それを無視してドラコが踵を返すと、クラッブとゴイルが慌ててその後を追った。
「潔癖症ということかな？」
「下々の者に触れられては、汚れが移るというわけですな」
「なるほどなるほど」
　加勢する様にロンの隣に立っていたハリーの耳に、聞き慣れた声が聞こえてきた。何時もと変わらない、弾むような何処か楽しそうな声だ。ハリーは振り返り、視線を上へと向けた。
「……フレッド、ジョージ。もしかして何かする気？」
「いやいや、ハリー」
「我らが悪戯をすると勘違いしていないかな？」
「違うの？」
　怪訝そうな顔をしてハリーが訊ねる。彼らが真っ当な考えを巡らせていると考えるのは、今までの所業から考えるに無理な話だ。自分たちに対するその評価を十分承知しているのだろう。双子はハリーの態度に頓着した風もなく、おどけた様に小さく肩を竦めた。
「汚れも深く染まってしまえば―――」
「―――案外心地良いかもしれない」
　にんまりと笑った双子が碌なことを考えていないのは、その表情から判った。
「……程ほどにね」
　ハリーが呆れた様に肩を落として見せると、双子が笑みを深めた。呆れを含んだハリーの言葉を、激励とでもとったのかもしれない。
「ほらほら、ロニー坊や。いつまでむくれているのかな？」
「可愛いお嬢さんがお困りだ」
「可愛いお顔が台無しだ」
「誰がっ」
　双子に引き寄せられてぎゅうぎゅうと腕の中に押し込まれ、息も出来ないのではないかという状況でロンが喚く。相手にすることないわ、と慰めていたハーマイオニーが驚きに目を見開き、それから可笑しそうに笑った。
　酸欠状態でもがくロンを交互に腕に収め、双子がハリーの方を意味ありげに見る。にんまりと笑った双子に、ハリーは呆然とし、それから成る程と肩を竦めた。


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