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「何を、企んでいる？」 間近で聞こえてきたその声には、何処か見下すような冷たい響きがあった。それでも、綺麗に澄んだ声質は耳に心地いい。 返事をしないハリーに、ポッター、と促すような声が掛けられる。ハリーは慌てて口を開いた。 「ふ、双子が、君を連れてこいって……」 「何の為に？」 「さあ。何か悪戯を仕掛けるつもりだと思うけど……」 情けないくらいに、声が上擦っていた。頭の中は、自分の鼓動で煩いくらいだ。何時に無い近さで、秀麗な顔が眼前にあった。 「ふうん」 莫迦にしたように小さく呟いて、ドラコが掴んでいたハリーの胸倉から手を離した。それを名残惜しそうに眺めたハリーに、ドラコが薄く笑う。 「天下のハリー・ポッター様が、双子の使い走りかい？」 嘲る様に言い、口元を手の甲で拭う。興味を失ったかのようにハリーに背を向けると、ドラコは傍らの二人を視線で促し、元来た廊下を戻っていった。 「失敗かい？」 突然聞こえた双子の声で、漸くハリーは我に返った。何時の間にか息を止めていたらしい。大きく息を吸い込んだが、忙しなく跳ねる鼓動は一向に静まらなかった。 「ハリー？」 「大丈夫か？」 只ならぬハリーの様子に、双子が顔を覗き込んでくる。今更の様に、顔の熱が高まった。 「ハリー？」 「何かされたのか？」 「なっ、なんでもない！」 真っ赤になっている自分を自覚しながら、誤魔化す様に勢い良く首を振って見せる。しかし、その声は誤魔化し様もないほど上擦っていた。 何を言われるのかと思ったが、一向に双子の声はしない。ハリーは沈黙を保つ双子の顔を恐る恐る見上げた。 「……ハリーがねえ」 「いやいやジョージ君。理屈ではないのだよ」 「なるほどなるほど。ある日突然に、というわけだ」 「……何が言いたいわけ？」 楽しそうに頭上で会話する双子が、碌な事を言わない事はハリーとて十分承知している。それでも、意味ありげな双子の笑みが気になった。 「惚れたね？」 「……っな！？」 二重奏で言い渡された言葉に、ハリーが金魚の様に口を開け閉めする。咄嗟に言葉が出なかった。 「だっ、誰がっ」 漸く言葉を発したハリーを面白そうに眺め、双子がハリーにとっては嬉しくない類の笑みを浮かべる。わざとらしい程にもったいぶった仕草で、二本の長い指がハリーに向けられた。訪れた短い沈黙に、ハリーが小さく喉を鳴らす。 「天下に名高いハリー・ポッターが―――」 「―――件の白金の君に」 苛立たしいほどにはっきりと、双子の声が響いた。 next |