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大広間は変わらぬ喧騒に包まれていた。 食欲があるわけではなかったが、昨日の夜も食べなかったのだから、と促すゴイルとクラッブの心配そうな顔に、ドラコは朝食の席に付いていた。それでもやはり食べる気が起こらず、少しだけ適当に口に入れると、締め括りに紅茶のカップに手を伸ばした。 ふと、目を上げた先にグリフィンドールのテーブルが見えた。目に付く赤毛が騒がしく揺れている。無意識の内に、ドラコは右の手首に左手を添えた。 「マルフォイ！」 大広間を出て一時限目の教室に向かおうとしていたドラコは、呼び止められて歩みを止めた。何だ、と問う代わりに振り返り目を細めると、ハリーが困惑した様に表情を曇らせた。 「血が……」 ハリーの視線を追って右手を見ると、手首に血が滲んでいた。怪訝そうに手首を眺めた後、だから、と問う様に再び視線をハリーに戻す。視線の先では、ハリーが一心にローブのポケットを探っていた。 「はい。……貼っても？」 手に持った絆創膏を差出し首を傾げたハリーに、ドラコは深く考えるでもなく右腕を差し出していた。 不用意に触れない様に気を使っているのか、ハリーが慎重に白く細い手首に絆創膏を貼る。判創膏に覆われて、血を滲ませた爪痕が隠れた。 「君、肌弱そうだから、長く貼ってると良くないかも」 視線を手首に止めたまま、ハリーが微かに眉根を寄せた。つられた様にドラコが視線を手首に落とす。 「はい」 ハリーが持っていた残りの判創膏を差出すと、ドラコは視線をハリーの顔に戻した。受け取ろうとしないドラコの手にそれが載せられる。それじゃ、と言い残し、ハリーが踵を返した。それを黙って見送り、ドラコは再び手の中の判創膏に視線を落とした。 「ドラコ？」 「……ああ」 促すような声が隣から聞こえて、ドラコは我に返って歩き出した。手の中の判創膏を無造作にローブのポケットに仕舞い込む。ハリーの予想外の行動に、ドラコは困惑していた。昨日見せてしまった醜態に、嫌味を投げ掛ける事を躊躇したことは自覚していた。出来ることなら、ハリーとは顔を合わせたくないと思っていたのだ。 ポケットの中で判創膏を掴んだまま、ドラコは困惑気味に眉根を寄せた。 手首に触れたハリー指の感触が微かに残っている。しかし、何故だかそれに嫌悪を感じる事はなかった。 next |