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廊下を歩いていたドラコは、呼び止められて歩みを止めた。振り返ると予想通りの撥ねた黒髪が目に入り、ドラコは微かに目を細めた。ドラコの両脇に居たゴイルとクラッブが、庇う様に微かに前に出る。 「ちょっといい？ 話があるんだ」 警戒する様に睨んでくる両脇の二人に頓着した風も無く、ハリーが尋ねる。友好的とも取れる態度に、ドラコは微かに戸惑う様に眉を寄せた。 「今、時間無い？」 「……いいだろう」 僅かに逡巡し、ドラコが頷いた。心配そうに自分を見る両脇の二人にも頷いて見せる。二人は不服そうに眉を寄せたが、ドラコに視線で促されるとハリーとドラコをそこに残し歩き出した。 ハリーは近くの空き部屋に入るようドラコに促した。喧騒の遠退いた場所で、耳に入るのは窓の外から時折微かに聞こえる人の声と、時計の針が時を刻む音だけだ。 窓際に立つと、ドラコが促す様にハリーを見た。 ハリーは緊張を覚えて、無意識の内に眼鏡を押し上げた。考えてみると、こんな風にドラコと対峙するのは初めてではないだろうか。皮肉や嫌味を投げ合うわけでもなく、周りに誰かがいるわけでもなく、静寂がこの場を包んでいる。 何も話さないハリーに焦れた様に、ドラコが微かに目を細めた。どうやら穏やかともいえる静寂は、長くは持たないものらしい。漸くハリーは口を開いた。 「昨日のことだけど……。あの、双子の……」 双子という単語に、ドラコが不快を露にする。ハリーは慌てて話を続けた。 「謝っておいて欲しいって。軽率だったって。そんなに不快なものでもないって、判れば良いと思っただけだったんだ」 「だけ、ね。親切の押し売りがお得意なグリフィンドールらしいな。……全くもって、傲慢だ」 軽蔑する様に、ドラコが目を細めた。冷たい言い様だったが、しかし今回ばかりはその怒りはもっともだ。 「でも……。でも、僕はそういうのが嬉しかった。だから、例え押し売りだとしても悪いことだけじゃないと思う。クィディッチの試合で勝った時とか、嬉しいときに抱き付かれたり髪をぐちゃぐちゃにされるのって……嬉しいよ。僕はずっとそういう触れ合うようなのを知らなかったから……。君だって子供の時に頭を撫でてもらうのとかは嫌いじゃなかっただろ？ そういうのって、親愛を示すものじゃない？ だから……」 何処か懸命になって話しているハリーを、ドラコは表情を変えずに見ていた。言葉に詰まった様に話を止め、ハリーが小さく溜め息をつく。 「とにかく、昨日のことは謝罪しておく。……時間を取らせて悪かったよ」 締め括るようにそう言っても、ドラコは何も言葉を返さなかった。微かに纏っていた苛立ちと不快さも、今は表に出ていない。 感情の一切を殺ぎ落とした様な無表情に、ハリーは話を続けることを諦めた。 「……それじゃ」 短く言って、踵を返す。 扉に手を掛け、ハリーが僅かにドラコに視線を向けたが、やはりドラコは表情を変えることをしなかった。 静寂の中で扉が軋む音が響き、やがてそれが止むと部屋は再び静寂に支配された。時計の針が時を刻む音が、奇妙に耳に付く。 暫くの間、ドラコは表情もなくハリーの出ていった扉を見つめていた。 「……そんなもの、僕は知らない」 微かな呟きが、石造りの教室に零れた。 next |