|
グリフィンドール寮に向かう廊下を歩いていたハリーは、自分でも気が付かずに溜息を零していた。嘲笑や侮蔑の言葉、嫌味や皮肉。そういったもので武装された時に相手をするのは容易いのに、あんな風に感情を押し殺されてしまうと、どうして良いのか判らなくなる。 もしかして、自分は歩み寄りたいと思っていたのだろうか。 話をしようと考えて呼び止め、実際に話をしたというのに、ハリーは自分がどうしたいと思っているのか未だに判らなかった。 彼が綺麗な容貌をしていると気が付いてしまった。そしてこっそりと眺めるようになって、彼は親しい人間に対しては態度が違うことに気が付いた。そして、線の内側にいる人物に、羨望と嫉妬さえ覚えたのではないか。 彼は人当たりの良さという言葉からは縁遠く、殆どの人間に対して無関心だ。彼にとって関心があるということは、特別なのかもしれない。抱くものが敵愾心や嫌悪だとしても、彼にとって自分は特別だったのかもしれないと、気が付いてしまった。 もしかしたら、自分はあの線の内側に入れたのかもしれない。 あの時、彼の手を取っていたのなら……。 今更だ、とハリーは思った。それに、あの時の判断を後悔しているわけではない。今あの時に戻ったとしても、彼のいう友人の選び方を実践する気はないし、彼の考え方に染まるつもりもない。 しかし、自分は接し方を間違えたのかもしれない。自分の行動が彼の自尊心を傷付け、その後の関係を決定付けたのではないか。 ―――そんなこと、今まで考えた事もなかった。 ハリーは心が小さくざわめくのを自覚した。 もしかしたら、自分は間違えてしまったのかもしれない。 next |