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腕を上げた瞬間ローブのポケットから聞こえた微かな音に、ドラコは眉を寄せた。そこには、朝に仕舞い込んだ判創膏が入れたままになっている。 書棚から目的の本を取り出すと、ドラコはその本を借りて図書室を後にした。廊下を歩きながら、ローブのポケットに手を伸ばす。ドラコは眉根を寄せて途中でその手を止めると、両手で本を抱え直した。 判創膏を渡されたこととその前後の態度。ハリーの態度の変化に、ドラコは戸惑いと共に自分でも理解できない苛立ちを覚えていた。 ハリーの戸惑った様子や友好的な態度を目にする度に、苛々が増していく。その度に罵りたい衝動に駆られるが、自分が何を口にするつもりなのかはよく判らなかった。考えるのは危険だと頭の中で警鐘が鳴る。ドラコはそのことを思考から追い出す様に軽く頭を振った。 寮に戻り自室に本を置くと、ドラコはクラッブとゴイルと共に大広間に向かった。夕食の時間に間もない廊下は生徒で溢れていた。何時もながらの人の多さに、ドラコの眉間に皺が刻まれる。人が多いのは嫌いだった。広い空間に少ない人間という環境に慣れていたドラコは、簡単に人にぶつかりそうなほど混雑した状況というものには未だにどうにも慣れない。 クラッブとゴイルの巨体に挟まれてどうにか人にぶつかることなく歩いていたドラコは、視線を感じて苛立ちを覚えた。誰かを確かめなくとも、視線の主は判っている。ドラコは衝動を押さえる様に拳を握り、その視線を無視してスリザリンの席に付いた。 食事中にも時折視線を感じ、無意識にカップを持つ手に力が篭る。 ―――視界に入れることすら、嫌っていたくせに。 感情の高ぶりを覚えて、ドラコは食事の手を止めた。 「ドラコ？」 「……先に寮に戻る」 尋ねてくるゴイルに短く答え、ドラコは早々に食事をすませると席を立った。 寮の自室に戻ると、ドラコはローブのポケットから判創膏を取り出してベッドの上に落とした。 ―――あれだけ嫌っていたくせに。 叫びたい衝動に、ドラコは唇を噛んでそれを押さえ込んだ。ハリーの惚けたような表情と、困惑した表情が脳裏に浮かぶ。 ―――そんなにこの顔がお気に召したのか、それとも晒してしまった醜態に憐憫でも覚えたか……。 ドラコはベッドに倒れ込むと、枕に顔を埋めた。ドラコの他には誰もいない室内は、物音一つしない。 暫くの静寂の後、静かな部屋に押し殺された嗚咽の声が微かに零れた。 next |