|
どのくらいの時間が経ったのだろうか。ハリーは目の前で肩を震わせるドラコの隣に、黙って立っていた。 抱き寄せて、慰めたい。ハリーは咄嗟にそう考えた自分に、僅かに戸惑った。 目の前に立つドラコは、何時もの強気な様子が微塵もない。傲慢さも冷たさも、まるで彼が常に纏っているその鎧がなくなってしまったかのようだ。ただ、繊細さだけが目に付いた。 ―――やはり僕は、間違えてしまったのもしれない。 ハリーは俯いたままのドラコをゆっくりと眺めた。 懸命に感情を押さえようとしているのか、嗚咽の声は殆ど漏れてこない。声もなくただ肩を震わせる様子が、余計に痛々しかった。 ハリーは咄嗟にドラコに向かって伸ばした手を、途中で止めた。柔らかい白金の髪を梳き、細い肩を抱き寄せたい。しかしそれは、余計に彼を追い詰めることになるのかもしれない。 双子の経験から、ハリーは不用意に触れる事を躊躇した。 ただ立ち尽くし、ハリーはドラコが落ち着くのを待った。漸く涙が止まったのか、彼はハリーのハンカチで目許を拭っている。長い白金の睫がゆっくりと瞬いた。 まるで、職人が精魂込めて作った人形の様だ。 ハリーは間近でみるドラコの容貌に、思わず見惚れていた。繊細さを醸し出す今の彼の雰囲気が、その印象に拍車をかけている。きっと、彼の綺麗な容貌だけを問題にする人間は多いだろう。それに加えて、彼は育ちも家柄も良い。生まれつき持っている地位と富という付属品も俗人には魅力的だと言えるだろう。 ―――僕はまた、間違えてしまったのかもしれない。 とくり、と心臓が跳ねた。以前にロンが言った通りだ。外見だけを問題にしているかのような発言は軽率だった。以前に家柄や血統の価値を否定しておいて、あの言い草は更に腹立たしいものだっただろう。またも自分は、彼を傷つけてしまったのかもしれない。 「……寮に、戻る」 小さな呟きに、ハリーは我に返った。 「一人で大丈夫？」 咄嗟に出てしまった言葉に、ドラコが怒るかもしれないとハリーは焦ったが、彼は小さく頷いただけだった。ハリーに視線を向けることもなく、ドラコが歩き出す。 「それじゃ、また」 後姿に声を掛けたが、ドラコは振り返らなかった。しかし、それ以上掛ける言葉も見つからない。 遠ざかって行く彼は、何時もの様に顔を上げ、背を伸ばして歩いていた。 next |