ドラコの反応は色々変わっている、とハリーは思った。
　叔父の言いつけで家から出して貰えなかったという話をした時も、他の人間のような横暴だとかいった怒りや同情を示すことはなかった。今のところ一般的な反応を示したのは、満足に食事を与えられなかったという話だけだ。その時は不快そうに眉を顰めていた。
　小首を傾げたドラコに、ハリーは頬を掻いた。
「子供を家から出さないのは、普通じゃないのか？」
「普通……なの？」
　ハリーが問い返すと、ドラコが困った様に眉を顰めた。
「さあ。どうやら僕はそういったことでの普通が良く判っていないらしいからな。……中庭も散歩できないのは変……かな？」
「……そう。えっと、今度は君の番だよ」
　改めて話をするといっても、咄嗟には何も出てこない。困ってしまった二人は、ホグワーツに来る前の話をすることにしたのだが、それもどうやら奇妙なことになってしまったとハリーは思った。
　取り合えず、彼が筋金入りの御曹司だということだけは改めて判ったかもしれない。
「小さい頃は乳母が僕の面倒を見ていた。その後は家庭教師が何人か。父上はなるべく質の良い家庭教師を付けるようにしてくださった」
「で、家からは出さないわけ？」
「勿論。僕は館から出たことは殆どなかった。別荘や父上の知人の家以外に外に出たのは、ホグワーツの入学が決まって、ダイアゴン横丁に行ったのが初めてだった」
「それで不満はなかったわけ？」
「……何のだ？」
　小首を傾げたドラコに、またもハリーは困ってしまった。自分も大概真っ当とは言えない育ち方をしてきたが、ドラコの育ち方もなかなかに理解し難い。ドラコの反応から察するに、綺麗に飾り立てて箱にしまわれている様な育ちを不思議にも不満にも思っていないらしい。奇妙な従順さを感じて、ハリーは戸惑った。
　不思議そうに首を傾げて自分を見ているドラコになんと答えれば良いのかと逡巡しているハリーの耳に、六時を知らせる鐘の音が聞こえた。
「もう夕食の時間だね。……一緒に行くのは、嫌……だよね？」
　窺う様に見れば、当然というようにドラコが頷く。不用意に人目を引いて邪推されるのはやはり嫌なのだろう。ハリーは判ったと頷くと立ち上がり、仕掛けになっている出入り口を開けた。
「それじゃ、また」
　ハリーが笑って見せると、廊下に出たドラコがハリーを振り返った。微かに口を開き、思い直した様に又閉じる。結局小さく頷きを返しただけで、ドラコが歩き出した。
　少しは進展したと思ってもいいのだろうか。
　ハリーは華奢な後姿を見送りながら、小さく首を傾げた。


next

BACK