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大丈夫。問題ない。 廊下を歩きながら、ドラコは自分に言い聞かせる様にその言葉を心の中で繰り返した。ハリーに触れた右手を、ゆっくりと握り締める。 早足でスリザリン寮まで辿りつくと、合言葉を言って中に入った。談話室にいた何人かの生徒が挨拶をしてくるのにいつも通りに返事をし、ドラコは自室に入った途端に息をついた。自室には今は誰もいない。ドラコはそのことにも安堵を覚え、ベッドに腰を下ろした。 白い手を目の前に持ち上げ、手のひらを眺めてみる。 ぞくりと走った悪寒は、吐き気まで引き起こすことはなさそうだった。触れた手には嫌悪の感覚は残っていない。指に残る彼の肌の温もりは、むしろ心地良い。 ―――綺麗な肌……。 耳にこびりつくその言葉を振り払う様に、ドラコは数度首を振った。 忘れろ、と自分に言い聞かせ目を閉じる。しかし、そうすることで、かえって脳裏に忘れたい映像が浮かんでしまい、ドラコは眉根を寄せた。 弾かれた様に振り向いた瞬間視界に入った、驚いたような顔。その顔に狼狽が浮かび、取り繕うような笑みが広がる。自分の手首を掴んだ、大きな手。狼狽を隠す様に平静を装った声。言い聞かせる様に、いいね、と確認した、彼の低い声……。 ―――この人は、誰なのだろう……？ ぞくり、と悪寒が走った。怖い、という感情がドラコを襲った。知っている筈の人物が、まるで全く知らない人のように思えた。 記憶の反芻と共に、そのときの感情が鮮明に思い出されてしまい、ドラコは唇を噛んで目を開けた。 ―――さっき触れたのは、ポッターの手だ。 そう自分に言い聞かせ、深呼吸をする。彼のあの言葉に、他意はなかったはずだ。その証拠に、触れた温もりに嫌悪は感じなかった。 彼は訝っただろうか？ ドラコはふとそう思い至り、眉を寄せた。視線を膝の上の手のひらに落とす。手に伝わった温もりを思い出し、ドラコは突然動きを止めた。 ―――僕は、いきなり頬に触れてしまった気がする。 その行為は、どう考えても普通にとる行動ではない。動じることなくにっこりと笑ったハリーを思い出し、ドラコは白い肌を真っ赤に染めた。今更の様に羞恥が襲ってくる。 本当に、彼はどう思っただろう？ ドラコはベッドに倒れ込むと、紅く染まったままの顔を枕に埋めた。 耳にこびりつく様に消えなかった声は、今は思考から綺麗に消えていた。 next |