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「最近は大人しいと思ってたんだけどね」 呆れを含んだロンの言葉に、ハリーは曖昧に笑って見せた。ハリーのいる階段からは、ドラコが上級生の腕を払った様子が見えていた。良く見下ろせる場所にいて、不快そうに顰められた表情すらはっきりと見える。踵を返してドラコが立ち去り、その場では手を払われた上級生が怒りと羞恥に顔を紅潮させていた。 ―――図々しく彼に触れるからだ。 ハリーは無意識の内に口の端を上げた。 「ハリー？」 掛けられた声に、ハリーは弾かれた様に顔を上げた。慌てて視線を声の主に向ける。ロンが怪訝そうな表情を浮かべて自分を見ていると判ると、ハリーは取り繕うように表情を緩めた。 「な、何？」 「何って……ぼーっとしてるから。……あのさ、訊いてもいい？」 「何？」 何処か不満そうなロンの態度に、ハリーは首を傾げた。その様子は、訊いても良いものなのかと迷っている様にも見える。 「日曜日、何処に行ってたわけ？ 僕達には言えないのかい？」 「そう言うわけじゃ……。言えるようになったら言うよ。今話すのは……ちょっと裏切るみたいだし」 どうやら不満というよりは話してもらえないことに傷ついているらしい。微かに罪悪感を覚えて、ハリーは確認するようにハーマイオニーをちらりと見た。彼女はロンのようには感じていないらしい。小さく笑ったままの表情からすると、察しが付いているのかもしれない。 「話せる様になったら直ぐに言うから」 「うん。……なんかさ、君、最近すごく楽しそうだから」 「……そう？」 ハリーの問いに、ロンが大きく頷きを返す。ハリーは微かに顔が熱を持つのを感じた。 確かに、楽しい。滅多に見せないような彼の笑顔を、自分は見られる。あの張り詰めた空気は緩むこともあるのだということを、自分は知っている。 「も、もう行かなくちゃ。授業に遅れちゃうよ」 あからさまな誤魔化しの台詞を口にして、ハリーが歩き出した。 抑揚の無い声で続けられる授業は、眠気を誘う。 既に右も前も辺り一帯は、襲われた睡魔にあっさりと白旗を上げている。豪快に机に突っ伏して惰眠を貪っているロンを横目で眺め、ハリーは欠伸を噛殺した。 教室に響いているのは、魔法史を延々と語るピンズの生気の無い声と、数の所為で結構な音量になってしまっている生徒の寝息だけだ。再度欠伸を噛殺したハリーは、左腕を軽く叩かれて視線をそちらに向けた。 『マルフォイとは上手くいってるの？』 差し出された紙に書かれている文字に、ハリーは声を上げそうになった。懸命にそれを堪え、苦虫を噛み殺したような顔でハーマイオニーに向き直る。 『それなりに』 にっこりと笑っているハーマイオニーは誤魔化せそうにない。ハリーは早々に抵抗を諦め、紙に短く返事を書いた。紙を差し出すと、目を通したハーマイオニーがまたペンを走らせる。 『最近彼、少し丸くなったというか、雰囲気が前ほど刺々しくないわよね』 『何が言いたいわけ？』 『競争率高くなりそうだなって思って』 『……楽しそうだね』 『まあね。良かったじゃない』 『うん。良かった』 筆談を続けていたハリーは、自分の書いた言葉を噛み締める様に頭の中で繰り返した。 ―――本当に、良かった。 ハリーは字面を眺めて、ゆっくりと笑みを浮かべた。 next |