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「あのさ、さっきから百面相してて楽しい？」 椅子に座って箒の手入れをしていたハリーは、掛けられた声に一瞬固まり、それからゆっくりと顔を上げた。 「百面相、してた？」 「してた」 目の前に立つ親友の即答に頬を掻き、ハリーが誤魔化す様に笑みを浮かべた。 確かにしていたのかも知れない。箒を磨きながら考え事に没頭していたので自分では気が付いていなかったが、先程から考えの浮き沈みに合わせて百面相をしていた可能性は十分に考えられる。 目の前のロンがもの問いたげな表情を浮かべているのを見とめ、ハリーは箒を磨く手を止めた。 「ちょっとね。……嬉しい事があったんだけど、困らせちゃったかなとも思って」 食事中に覗き見たドラコは、考え事に没頭している様だった。普段からあまり食べる方ではないが、今日は何時にも況して食事の手が止まっていることが多い様だった。 感情が溢れるのを止められずに伝えてしまった事を後悔はしていないが、もしかしたら彼を困らせてしまったのかもしれない。 「例の……コイビトの話？」 「未だ恋人希望だよ。だから軽々しくロンにも話せないんじゃないか」 「えっと、ごめん。……でも上手くいってるんだろ？」 「ま、ね」 肩を竦めて見せ、ハリーは再び箒を磨き始めた。 時折ロンは拗ねたような様子を見せる。ハリーが何時までも秘密にしているのが友人として寂しいのだろう。しかも、同じく友人であるハーマイオニーはロンと違い何かを知っている。ロンの気持ちも判らないわけではないが、時期をみた方が良いとハリーは思っていた。ロンのことも大事だが、軽々しく不用意な事をしてドラコを傷付けたくはない。それに、とハリーは笑みを浮かべた。 ―――ロンだって、ハーマイオニーのことを僕に話してなんかくれないじゃないか。 目を細めて見上げると、ロンが怪訝そうな顔をしていた。どうやらハリーがいきなり笑った所為らしい。 「ロンが話してくれたら、僕も考えるんだけどね」 「なんだよ、それ。僕に恋人いないの知ってて言ってるわけ？」 「好きな人の話だけど？」 途端に紅くなったロンに、ハリーは意地の悪い笑みを浮かべた。 「ロンだって話してくれないんだし。僕だけ軽々しく話すわけにはいかないなあ」 「僕は、好きな人なんていないよ！」 「近くに居すぎて見えないとかそういうの？」 益々顔を紅くしたロンに、ハリーは堪えきれずに噴出した。髪に負けないくらいに真っ赤な顔のまま、憤慨した様にロンは一言、もういい、と言い放ち、ハリーに背を向けて自分のベッドに向かって歩き出した。ハリーが去っていく背を視線で追う。 「言える様になったら言うから」 「約束だよ！」 振り向かずに言葉を返したロンは、怒っているのではなく恥ずかしいのだろう。ハリーは零れそうになる笑い声を懸命に押し殺した。隣のベッドから、整えるという名目で枕を叩く音が聞こえてくる。 ―――本当は、言いたいんだけどね。 小さく笑みを浮かべたまま、ハリーは膝の上の箒に視線を落とした。 本当は、周り中の人間に知らしめたい。誰にも彼を渡す気はないのだと。そして、彼を腕の中に囲い入れて、誰にも触れさせない。彼の境界線を無理やり踏み越えてくる者の手を、自分が代わりに叩き落す。 何時か彼は、それを許してくれるだろうか……？ next |