その週の土曜日も、スネイプがウィーズリー家を訪れた。 　どうやら相当彼のことを心配しているらしい。さして話をするわけでもないが、スネイプは頻繁に本を持ってきたという口実で顔を見に来る。 　その日は用事がなかったので、僕はまたスネイプと顔を合わせてしまった。しかし、今回は前のような苛立ちや嫌悪は感じなかった。 「……訊いても良いですか？」 　ウィーズリー夫人がお茶を入れている間に、僕はスネイプの正面のソファーに腰を下ろした。彼はすでに部屋に行っていて、今居間に居るのは僕とスネイプとウィーズリー夫妻の四人だけだ。 　スネイプは微かに驚いた風を見せて、それから言いたまえ、という様に頷いた。 「……彼が。以前に彼があまり話さない子だと言っていましたよね？　それは、昔からなんですか？」 　この一月の間彼に関心を向けない様にし、嫌悪の情をあまり上手く隠しているとはいえなかった僕がそう訊ねたことが、スネイプには意外だったらしい。あからさまに怪訝そうに眉を顰め、問うような視線を寄越す。でも僕は何も答えず、説明もせずに、スネイプが口を開くのを待った。自分でも、上手く説明出来るとは思えなかった。 「彼は、よく我輩の研究室や自室に来ていた。時にはどこぞの英雄気取りが、といった話をしに」 　英雄気取り、のあたりでちらりと僕を見る。口の端を上げて僕を見たのは、挑発しているのだろうか。でも僕は何も言わずに続きを促した。暫くして、スネイプが諦めた様に息を吐いた。 　もしかしたら、スネイプは僕が単なる好奇心で訊いているのか、それとも何か事情があるのか、確かめたかったのかもしれない。 「……しかし大抵は、黙って本を読んでいた。初めは構って欲しくて来るのかと思ったが、そのうち同じ部屋に居て、長い時間話もしないで互いに好きなことをするようになった」 「何の為にです？」 　僕なら本を読むだけなら寧ろ一人の方が良い。用事もないのにスネイプの自室を訪ねる意味が判らない。本当は、構って欲しかったのではないのだろうか？ 　そのあたりは個人的な話だ。スネイプは逡巡し、ウィーズリー夫妻が聞いていることが判ると、また口を開いた。 「……彼の両親はいつも忙しく、彼とあまり一緒に居なかった。そして、用事がある時くらいしか彼と話をしなかった。彼の父親は……不器用な人で、子供にどう接すればいいのか判らなかったという事情もあったのだろう。彼は我輩が心底煩わしそうな素振りを見せたとしたら部屋に来なくなったと思うので、まあ、不器用さはお互い様だと思うが」 「それじゃあ……彼にとっては一緒の空間に居るということに意味があったという事ですか？」 「我輩はそうだと思っている。……懐かれておるようですな？」 　言って、スネイプがウィーズリー夫人を見る。夫人は驚いたように目を瞬かせた。 　彼はいつも居間のソファーで本を読んでいる。僕はてっきり、部屋に篭る事に周りが好い顔をしないからだろうと思っていた。だから、居間にはいて、でも本を読むことで他人と距離を取っているのだと。でも、そうじゃなかったんだ。 　……彼は、夫人の傍に居たかったんだ。 　ウィーズリー氏が、夫人の肩をそっと抱き、落ち着かせるように軽く叩いた。夫人は泣き笑い状態だ。 　夫人は彼がなかなか懐いてくれないと気落ちしていた。歩み寄ろうとしても反応があまりなく、どうしても二の足を踏んでしまう。それは彼が近付き過ぎる事を不安に思っているからだと僕は思うけれど。でも、彼は馴染んではいなくても、懐いてはいたんだ。 　その不器用な感情表現に、戸惑いを覚えた。 　彼が自分の感情を表現することがとても不器用だったなんて、僕はずっと知らなかった。知ろうとしなかった。七年間、ずっと。そして、今も。 next

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