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「なんとまあ、幸せそうな顔しちゃって。どうする？ 起こす？」 「疲れてるんだろ、きっと。雨の中飛び回ったんだし」 耳に入り込んできたその声に、僕はぼんやりと目を開けた。瞬きをし、何とか寝起きの頭を働かせる。聞こえてきた声がハーマイオニーとロンの声だと理解すると、僕は半分寝ぼけたまま口を開いた。 「おはよ。今、何時？」 「あら、起こしちゃった？ おはよう、ハリー。今は九時よ」 「朝食だから呼びにきたんだけど……」 言って、ロンが視線を僕の腕の中に移す。そこでは彼が、まだぐっすりと眠っていた。彼の手は、僕の服を掴んだままだ。 ハーマイオニーがそっと彼の額に触れた。穏やかな寝顔に、昨晩の様な苦しそうな様子は無い。 「大分良くなったみたいね。熱も下がってる。……朝食は後でかしら？」 彼の手を見て、ハーマイオニーが笑みを零した。そうだね、と笑って返事をする。ロンの様子を窺うと、彼は少し困ったような、戸惑いがちな表情をしていた。やはりまだ、戸惑いの方が大きいのだろう。でも多分、大丈夫だと思った。僕ですら考えを改めることが出来たのだから。人の好いロンなら、きっと心配することはない。 「彼が起きたら教えて。きっとスープくらいなら飲めるわよね」 「ん、判った。悪いけど、僕の分の朝食残しておいて。その時にでも一緒に食べるから」 「判ったわ」 言って、ハーマイオニーが頷く。それから二人は朝食を摂りに一階に降りていった。 僕はベッドに入ったまま、彼を起こさない様にそっとサイドテーブルの上の眼鏡を取った。眼鏡を掛けて、腕の中の彼を眺める。ぐっすりと眠っている彼の寝顔は、やはり子供らしく可愛らしい。手近なものを掴む幼子の様に僕の服を掴んでいる様子に、僕は思わず笑みを浮かべた。それにしても、彼は色素が薄い。銀に近い淡い金髪を、僕は柔らかく梳いてみた。細い髪が、さらりと指の間を流れる。それが零れ落ちる先も、やはり色素が薄い。真っ白な肌は、青い血管が透けて見えるほどだ。その色素の薄さが、儚さや脆弱さを連想させる。スネイプが心配していたのも、もっともかも知れない。 そうして暫く彼の髪を梳いていると、ふと、髪と同じ淡い色の睫が震えた。目を開けた彼が、ゆっくりと瞬きする。彼が僅かに首を傾げ、薄い色の瞳で僕を見上げた。 「おはよう。気分はどう？」 「……はりぃ？」 「うん。そうだよ。……どこか痛いところとか苦しいところとか、ない？ 大丈夫？」 どうやら彼はまだ半分眠っているらしい。ぼんやりと首を傾げ、それからこっくりと頷く。 「まだ眠っているかい？ それとも起きて何か食べる？」 続けて訊くと、彼はまた、ぼんやりと頷いた。これではどちらか判らない。しかしどうやらまだ眠る方が有力そうだ。そう考え、僕は上掛けを直し眠るように促したが、彼は目を閉じようとしなかった。いつまでも僕を見上げている様子に、今度は僕が首を傾げる番だった。 「どうかした？ 何か欲しいものでもある？」 僕の問いに、彼が微かに唇を動かす。何かを言いかけて、しかし彼は結局口を閉じてしまった。 「何？」 促す様に笑って見せると、彼はゆっくりと起き上がり僕を見上げた。僅かに戸惑う様子を見せ、それから細い手を僕の方へ伸ばした。僕の背に腕を回し、胸に顔を埋める。僕は驚きに目を見開いた。彼があからさまに甘えるなど珍しい。見下ろすと、彼がますますしがみついてくる。 その様子に、僕は目を細めた。腕の中のぬくもりが、心地好い。 僕は柔らかな白金の髪をゆっくりと撫ぜた。 next |