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遠慮がちなノックの音に、僕は会話を止めて視線を扉に向けた。それから、クッションを背凭れにしてベッドに座っている彼と視線を交わす。 「誰だろ？ ハーマイオニーかな？ ちょうど良いから朝食にしようか」 そう言うと、彼が小さく頷いた。どうぞ、と言う間もなく開いた扉から現れたのは、ウィーズリー夫人だった。心配させてしまったからだろう。夫人の顔を見て、彼が困った様に僕を見上げた。 「あら、起きていたのね。ハリーの朝食を持ってきたのだけど」 どうやら未だ彼は眠っていると思っていたらしい。既に起きている彼を見て、夫人が満面の笑みを浮かべた。朝食の乗ったトレイを机の上に置き、夫人が彼の額に手を伸ばした。 「熱は大分下がったみたいね。大丈夫？ 痛いところとか、ない？」 彼が大丈夫だと首を振ると、夫人がまた笑み浮かべた。 「そう。良かったわ。スープなら食べられるかしら？」 夫人の問いに、彼が小さく頷く。 「それじゃあ、直ぐに温めて持ってくるわね」 言って、夫人が踵を返す。歩き出そうとした夫人の服の裾を、彼が掴んだ。咄嗟の行動だったのだろう。夫人が不思議そうに振り向いたことで、自分の行動に気が付いたらしい。慌てて服から手を離すと、彼が困った様に僕の顔を見上げた。僕は、小さく笑って彼の耳元に唇を寄せた。 「訊きたい事があるなら、ちゃんと訊かなくちゃ。勿論僕が浚って良いなら大歓迎だけど、どうする？ 僕と暮らす？」 小さく笑って言うと、彼が僕を見上げて瞬きした。白い頬がほんのりと紅く染まる。何処か恥ずかしそうに笑みを浮かべると、彼が意を決した様に息を吸い込んだ。 「あの……」 「なあに？」 掛けられた声に、ウィーズリー夫人が促す様ににっこりと笑う。ちらりと僕を見上げた彼に頷いて見せると、彼が再度夫人に視線を戻した。 「あの……僕、ここにいても良い？」 大きいとは言いがたい彼の声は、段々と消え入るように小さくなった。いつの間にか僕の服を掴んでいた彼の指に、力が篭る。俯いてしまった彼を、夫人が目を見開いて見ていた。 「まあ。……まあ、勿論よ」 言って、夫人がベッドに歩み寄り彼を抱き寄せた。 「誰かが欲しいと言ったって、渡さないわ。あなたが出て行くと言っても、させないわ」 力強い言葉と共に、夫人が彼を抱き締める。夫人の腕の中で、呆然としていた彼が嬉しそうに笑った。 「残念ながら、僕は貰い損ねたみたいだね」 はにかみながら夫人の腕の中に納まったままの彼に、少し戯けて声を掛ける。 「……ありがとう」 目を伏せて、彼が小さく呟いた。僕が夫人と視線を交わすと、夫人は満面の笑みを浮かべた。 ほんの少し本気で残念に思いながら、僕は幸せそうな彼を眺めて目を細めた。 next |