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「おはようハリー。昨日は面白いことはあったかい？」 「酒盛りのご相伴に与ったとか」 「健全な青少年の語り合いに混ざったとか」 「デート中の誰かにばったりだとか」 朝から楽しげな様子で矢継ぎ早に声を掛けて来る双子に、ハリーは曖昧な笑みを浮かべた。大広間に向かう足を止めることなく、肩を竦めてみせる。 「昨日は収穫なしだったよ」 「それは残念」 双子がそっくりの仕草で同時に肩を竦める。それからハリーを挟み込む様に左右に陣取ると、耳元に顔を寄せた。 「言い忘れてたけど、最上階の奥には行くなよ？」 「あそこは用がない奴は行かない決まりだ」 「え？」 怪訝そうに聞き返すハリーに、双子が揃って意味ありげな笑みを浮かべる。最上階の奥、と言った双子の声に、ハリーの心臓が跳ねた。 「本当に一人きりになりたい奴だとか、二人きりになりたい奴だとかの場所だから―――」 「―――行くと後悔するかもしれない」 そう言って口の端を上げると、二人はハリーを追い越して歩き去った。長身に見合う足の早さで、見事な赤毛が遠ざかって行く。思わず足を止め、ハリーは呆然とその背中を見送った。 「……遅いって」 ぼそりと零された呟きは、早朝の喧騒に紛れ、誰の耳に入ることもなく掻き消された。 休日の朝食時の大広間は何時もより人が疎らだ。それでもいつもの朝食より少し遅いこの時間は、休日ではもっとも混んでいる時間帯だろう。大広間の入り口で、ハリーはグリフィンドールのテーブルに目を向けた。テーブルの端で、ロンとハーマイオニーが朝食を摂っている。ハリーが近付くと、直ぐに二人はハリーに気が付いて顔を上げた。 「おはよう、ハリー」 「ゆっくりだったね」 ハリーはロンの隣に腰を下ろした。それから向かいのハーマイオニーに挨拶を返し、ロンのからかうような台詞に笑って見せた。 「昨日は眠れなくてね」 「よく言うよ。夜遊びだってばれてんだからね」 「また？ ハリーってば、お父様が泣くわよ？」 形見をそんな使い方して、とハーマイオニーが眉を顰める。僕の父親なら寧ろ面白がりそうだけど、とハリーが答えると、確かにとロンが納得した様に頷いた。 一瞬の沈黙の後、三人で顔を見合わせると笑いが零れた。それでさ、とロンが身を乗り出した瞬間、ふと、ハリーの視線が引き寄せられた。視界の端に映った、綺麗な白金。惹かれるままに視線を向けると、彼は大広間を出て行くところだった。 伸ばされた背筋。表情のない顔。 とくり、と心臓が跳ねた。耳の奥に、零れ落ちた彼の声が残っている。 本当に、と疑問が頭を過った。本当に、あれは彼だったのだろうか？ 「ハリー？」 「……え？」 「どうかした？ ぼーっとしてたけど」 「何でもないっ」 慌てて首を振り、誤魔化す様に朝食を摂り始める。昨夜の事を訊ねてくるロンに曖昧に返事をしながら、ハリーは金曜の夜の事を考えていた。 ―――忘れるか、それとも……確かめるか。 ハリーは無意識の内に拳を握り締めた。 next |