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夜の十二時を告げる鐘の音が石造りの城に響いた。 ハリーは透明マントをきつく掴むと、足音を立てない様に廊下を走った。フィルチの巡回からは外れているとはいえ、用心に越したことはない。窓の外から差し込む月明かりだけが、ハリーの行く先を照らしていた。 廊下の端まで来ると、ハリーは壁の装飾に触れた。月明かりだけを頼りに、慣れた様子で細工の位置をずらす。小さな音が鳴ったのを確認すると、ハリーは壁を強く押した。細く開いた隙間に身体を滑らせる。中に入ると、廊下の続きの様に広々とした空間があった。ハリーは内側の細工にふれて隙間を閉じると、歩を進め、突き当りの階段を急いで駆け上がった。 扉の前でハリーは足を止めた。一呼吸し、息を整える。ドアノブを掴むと、ハリーは物音一つしない室内に耳を澄ました。それから、静かに扉を押し開けた。 室内では、いつもの様にドラコがゆったりとソファに座っていた。扉を閉めて鍵をかけると、ハリーは更に室内に歩を進めた。 ハリーが室内に足を踏み入れると、漸くドラコがゆっくりと顔を上げた。白金の髪がさらりと流れる。窓から差し込む月明かりが、彼の白金の髪と白い面を照らしていた。その様はまるで人形の様だ。それを打ち消すように、彼の白い腕がゆっくりと持ち上げられた。自分に向かって伸ばされた白い手に、ハリーの心臓が小さく跳ねる。些か早足に歩み寄り、ハリーはその手に応える様に身を屈めた。 ドラコの細い腕が甘える様に背に回り、仄かな香水の香りが鼻腔を擽る。ハリーはゆっくりとドラコの背に手を回し、薄い肩に顔を埋めた。 彼が自分を見ないのは、今に始まったことではない。 ハリーは呼吸を整えると、ドラコを見下ろした。白い瞼は閉じられたままで、白金の睫が白い面に影を落としている。 「……ドラコ」 名前を呼べば、応える様に背に回ったドラコの腕に力が篭る。ハリーはドラコの耳朶を甘く噛み、それから白い首筋を辿った。白い肌に歯を立てると、ドラコの唇から小さく声が漏れる。自分の行為に対する反応に、ハリーは微かに笑みを浮かべた。甘える様にしがみ付くドラコを寝台に横たえ、ハリーはゆっくりと首筋から頬を撫ぜ上げた。柔らかな白金の髪を掻き揚げると、目を閉じたままのドラコが小さく微笑む。笑みを浮かべたまま伸ばされた白い手を取り、ハリーは白い指に音を立てて口付けた。 こうして触れるのは、もう何度目になるだろうか。 薄く笑みを浮かべたまま視線を落とす。ドラコの白い面は、微かに笑みを浮かべたままだ。人形の様に整った造作を眺めながら、ふと、ハリーは眉を顰めた。 「……ドラコ？」 名前を呼ぶと、ドラコがもう片方の手を伸ばしてくる。促されるままに、ハリーはドラコを抱き寄せた。 細い身体を抱き締めて、肩を掴み揺さぶりたくなる衝動を押さえ込む。 お互いに欲しいものを得るだけの関係で、そこに何かがあるわけではない。始めからそういう約束だった。そう言い聞かせてみても、苛立ちは治まらなかった。 ―――僕を見ろ。 叫びたくなる衝動を押さえ込み、柔らかな白金の髪を梳く。薄い笑みを浮かべるドラコを眺め、ハリーは唇を噛んだ。 彼は今、誰の腕の中にいるのだろう……。 薄らと笑みを浮かべて彼は、今、誰に抱かれているのだろう……。 細い身体を抱く腕に力を込めると、ハリーは薄い肩に顔を埋めた。 next |