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ハリーは金曜の夜が待ち遠しかった。自分がどうしたいのかが判れば、後は行動するのみだ。どこか心ここにあらずといったハリーに親友二人は怪訝そうな顔をしていたが、ハリーが夜遊びを示唆すると呆れたように肩を竦めただけでそれ以上追求はしなかった。勿論、ハーマイオニーは減点されないようにと注意することを忘れなかったが、それだけだ。 寮内の点呼が済むと、ハリーは透明マントを羽織り寮を出た。 冬に大分近付いた時期、誰も使用しない筈の夜の廊下は冷え冷えとしていた。隠れる為の透明マントが、思いがけず暖を取るのにも役立っている。ハリーは足音を忍ばせて、通い慣れた廊下を隠し部屋へと急いだ。 扉を開けると、既にドラコはいつもの様にソファに座っていた。相変わらず、ぼんやりと視線を宙に投げている。いつも自分が室内に入る頃には既に意識を他に飛ばしているようなドラコに、ハリーは苛立たしげに眉を顰めた。 室内に入り、後ろ手で扉を閉める。いつもの様にしっかりと施錠すると、ハリーはドラコの元に歩みを進めた。 「……こんばんは」 静かにそう告げる。到着の挨拶に、いつもの通り返事は無かった。ハリーがドラコの目の前に立つと、ドラコが片手をハリーに向けて伸ばした。 その瞬間、ハリーは苛立ちを忘れた。代わりにハリーの中に沸き起こったのは、奇妙な興奮だった。楽しげに目を細めると、ハリーは自分に向かって伸ばされたドラコの手に触れた。白く冷たい指先に口付けを落とす。それから、ハリーはドラコを寝台へと誘った。 変わらずぼんやりと何処かを彷徨っている風なドラコは、ハリーに手を引かれるまま寝台へと足を向けた。ドラコを寝台に腰掛けさせ、ハリーは彼が喜ぶようにその痩躯を抱き寄せた。冷えた身体に腕を回し、愛しむ様に白金の髪を撫でる。ドラコが甘える様にハリーの肩に額を寄せ、背に細い腕を回した。ハリーは宥める様にゆっくりと背を撫ぜ、ドラコの首筋に顔を埋めると彼の香りを吸い込んだ。白い首筋に軽く歯を立てる。ハリーの背に回されたドラコの腕が微かに震えた。 暖炉の薪が爆ぜる。その音が、静寂に包まれた室内に微かに響いた。 「まるで穢れを知らないみたいだね」 小さく笑って、ハリーが露わになったドラコの白い肌に指を滑らせた。いつもの様に、抵抗するわけでもなく、ドラコはハリーにされるがままだ。剥ぎ取った衣服を椅子の上に放ると、ハリーはもう一度喉の奥で笑った。 「可笑しいよね。そんなわけないのに。……そう思わない、マルフォイ？」 口にした姓に、虚ろだったドラコの瞳がゆっくりと焦点を結ぶ。現実に引き戻されたことが不満なのだろう。不快そうに眉を顰めると、ドラコが身体を起こそうとした。 「名前で呼ぶ約束だ。それが守れないのなら……」 そう言った瞬間、ハリーの手がドラコの腕をきつく掴み、ドラコを寝台に押し戻した。ドラコは驚きに目を見開いた。真上にあるハリーの顔が、ドラコの色の薄い瞳に映っている。その様子に、ハリーは満足そうに目を細めた。 「……何をっ」 苛立たしげに発せられた言葉は、最後まで紡がれることはなかった。ハリーは押さえつけたドラコに口付けると、舌を挿し入れ、口腔をゆっくりとなぞった。押さえつけた細い身体が強張る。圧し掛かるハリーの重みに、ドラコの抵抗は悉く意味を成さなかった。ハリーから離れようともがくドラコの腕は、いっそ憐憫を覚えるほどに細く弱弱しい。痩せ細った今の彼では、押さえつけるハリーから逃れることは不可能だった。 存分にドラコの口腔を蹂躙すると、ハリーは漸く顔を上げた。すっかり息の上がったドラコが、それでもハリーを睨み付ける。ハリーは背筋を何かが這うような快感を覚えた。彼が、自分を真っ直ぐに見ている。 「離せ」 「嫌だ」 静かな返答に、ドラコの頬に朱が走った。渾身の力を込めているというのに、ハリーがびくともしないことに屈辱を覚えたのかもしれない。押さえつける腕に力を込めると、苦痛にドラコの顔が微かに歪んだ。それに目を細め、ハリーはゆっくりとドラコの肩に顔を埋めた。白い首に舌を這わせ、そのまま白い肌を辿る。ドラコの身体がびくりと震えた。 「ポッター！ 何の真似だっ」 「何って？ いつも通りだよ？」 殊更に明るい声音で、歌う様に言う。ハリーは白い肌から顔を上げると、軽くドラコに口付けを落とした。ドラコが自分の名を呼んだことで、ハリーは益々機嫌が良くなっていた。 「どうしてそんな顔するのさ。いつも通り、楽しもうよ？」 ハリーがそう告げると、ドラコの顔から血の気が引いた。 勿論、いつも通りな筈は無い。今の彼は、ハリーを見ている。彼の柔らかな唇を味わうのも、今日が初めてだ。 「いつもしてるでしょ？ この、僕と」 言って、ハリーはにこやかに笑ってみせた。色の薄い瞳を覗き込めば、やはりそこに自分が映っている。今、彼に触れているのは、自分だ。ハリーは満足そうに目を細めた。 next |