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「……や……だっ」 懸命に自分から逃れようとするドラコに、ハリーは喉の奥で笑った。涙で濡れた瞳はやはり自分を睨んでいて、それが心地好い。 奇妙なほどに、ハリーは楽しかった。足りなかった何かが満たされる様だ。いつも思考を沈め、人形の様にハリーに身を任せていた彼が、今は自分を見ている。 拒絶を口にしながら、慣れた身体はあっさりとハリーを受け入れた。与えられる快楽に、ドラコの口から声が漏れる。そんな自分を恥じるように唇を噛むドラコの瞳から、涙が零れた。 すすり泣くドラコの拒絶の言葉を封じるように、ハリーは優しく愛撫を加えた。親しんだ身体の何処をどうすればよいのかは既に判っている。 快楽にドラコの思考が霞んできた頃に、ハリーは突然動きを止めた。ドラコの顔を覗き込み、白金の髪を優しく梳く。 「ドラコ。ドラコ。……僕を見て？」 両の手でドラコの白い頬を挟み、ハリーがそう囁いた。促されるままに、ぼんやりとドラコがハリーを見上げる。もう思考する気力も残っていないのだろう。その様子は酷く虚ろだ。その瞳に自分の姿が映ると、ハリーが嬉しそうに微笑んだ。 「……僕を見て？ 僕だけを、見て……」 呟いて、ハリーはドラコに啄ばむ様に口付けた。その口付けが、やがて深いものに変わっていく。 ドラコが意識を失うまで、ハリーは行為に溺れた。 翌朝、ハリーは寒さで目を覚ました。暖炉の火は疾うに消え、室内は寒々としている。ハリーは寒さに身を震わせると、毛布を肩の上まで引き上げた。 隣に誰かが居た気配は既に無かった。いつもの様に、ハリーが目を覚ます前に彼は寮に戻ったのだろう。ハリーは寝台の傍に置かれたシャツに手を伸ばし、起き上がるとそれを羽織った。 昨晩に覚えた満足感は、今はもう無かった。代わりに今は、言い様も無いもやもやとした感情がハリーの中で燻っていた。ふと、焦燥感や不安のようなものを覚え、それを振り払う様にハリーは慌てて寝台から出た。この場所にいると、何かが足元から這い上がってくるような気がする。急いで衣服を身につけ透明マントを羽織ると、ハリーは逃げる様に隠し部屋を後にした。 後悔する様なことはしていない筈だった。自分は、いつもと同じことをしただけだ。早足で寮へ続く廊下を歩きながら、ハリーは言い聞かせる様にそう思った。 ―――だって彼は、いつも喜んで抱かれてたじゃないか。 ハリーは心臓が早鐘を打つのを自覚した。始めに誘ったのは彼の方だ。自分に向かって先に手を伸ばすのも、いつも彼の方だ。彼が、自分にこの快楽を教えたのだ。 ―――僕は悪くない。僕は、悪くない。 そう言い聞かせる様を嘲笑うかの様に、明るい日の光がハリーを正気にさせていく。 寮に辿り着くと、ハリーは自分が物音を立てていることも気にせずに、自室の寝台に逃げ込んだ。ハリーはまるでそうすることで何かから逃れられるかの様に、カーテンを引くと耳を塞いで頭を振った。 「……いつもと同じだ。僕は、いつもと同じことをしただけだ。僕は、何も……」 小さく呟いて、ハリーは毛布を頭から被った。 今耳に残っているのは、すすり泣きの声と、切れ切れに零されたドラコの拒絶の言葉だけだった。 - 第一章 了 - next |