ロンにドラコが居ないと言われ、漸くハリーは周りに目を向ける様になった。隠し部屋でのことがあってから三日、極力周りを、特にスリザリン生を見ない様にしていたので、ハリーはそれまでドラコが居ないことに気が付いていなかった。居ないと聞かされて、さり気無さを装って目立つ白金の髪を捜したが、夕方になってもドラコを見掛けることは無かった。授業にも出ていないのか、廊下で見掛けることもない。合同授業もないので、ドラコがどうしているのかハリーが知ることは出来なかった。 　透明マントを使って調べにいく勇気は無かった。出来ることなら、このまま無かったこととして忘れてしまいたい。そんな気さえする。 　自分の卑怯さに羞恥心を覚え、ハリーは顔を歪めた。 　―――どうして、あんなことをしてしまったのだろう？ 　考えても、答えは出そうに無かった。いや、自分は答えを知りたくないのかもしれない。ハリーは小さく溜息を吐いた。 　大広間に入ると、ハリーはスリザリンの席に視線を向けた。さり気無く一瞥したが、やはりドラコは居なかった。 「……またマルフォイは居ないんだね。医務室にでも居るのかな？」 　席に着き食事を摂りながら、ハリーはさして興味があるわけでもない風を装ってそう口にした。声が震えない様に気をつけるあまり、不自然に身体に力が篭る。勘付かれるのを恐れて、ハリーは手に持ったカップから視線を外そうとはしなかった。 「あら、ほんと。……でも、午後に図書室で見掛けた時は普通に歩いてたと思ったけど。ま、遠目だったから良く判らないけど」 「お坊ちゃまはホグワーツの食事は質素過ぎてお気に召さないんじゃないの？」 　言って、ロンが無造作にパイに噛付く。ハーマイオニーの言葉に安堵を覚え、ハリーは漸く顔を上げた。 「なんだ。じゃ、明日の魔法薬学は大丈夫そうだね」 「そうかもね。医務室送りにでもならない限り、マルフォイが魔法薬学を休むとはあまり思えないし」 「ああ。それが気になったのか。確かに、重大問題だね」 「だろ？」 　笑いながら大きく頷くロンに、にやりと目を細めてみせる。誤魔化せたことに安堵しながら、ハリーはその話は終わりというように食事に没頭する振りを始めた。 　図書室で彼を見かけたというハーマイオニーの言葉に、ハリーは深い安堵を覚えていた。考えてみれば行為自体はいつものことで、そのことで体調を大きく崩すとは考え難い。高揚する気分に飲み込まれ、彼の言葉や様子に頓着しなかったが、もしかしたら彼が泣いていたのは腹が立ったのと悔しかった所為だったのかも知れない。無理強いし、約束もなにもかも踏み躙ってしまったという事実に罪悪感を覚えていたが、もしかしたら彼は怒っていて、単にハリーの顔を見たくないと考えていて大広間に現れないだけなのかも知れない。 　その考えに、ハリーは気が楽になるのを感じた。無理強いしたとはいえ、行為自体は珍しくもなかったのだ。そう考えるのが妥当な気がする。だが、自分が約束を違えたのは事実なので、謝らなくてはならないだろう。 　顔をあわせるのがずっと恐ろしかったが、そう考えると謝罪は出来そうに思えた。こちらが悪いのだから、怒る彼にひたすら謝るのだ。 　喉の痞えが無くなった様な気がして、ハリーは今までの分を取り返す様に食事に没頭した。 next

BACK