翌日の朝、スリザリンの席にドラコが居ない事に気が付いても、ハリーはあまり気にならなかった。恐らくハリーの顔を見たくなくて寮で食事を摂っているのだ。図書室に居たということは、授業にも出ている筈で、だとすれば食事を抜いているとは思えない。 　他愛の無い話をしながら朝食を終え、ハリーは教科書を手に地下へと向かった。 「あー、もう。何で朝から魔法薬学なんだよ。一日の始まりから憂鬱だよ」 「あら。ロンはどの教科でも憂鬱なんじゃないの？」 　ぼやくロンに、ハーマイオニーが笑う。魔法薬学が一番憂鬱なんだと返すロンに、ハリーは思わず噴出した。どうやらどの教科も、の辺りは否定しないらしい。 　スリザリンと合同の魔法薬学なら、さして問題もなくドラコが授業を受けていることを確認できる。今日に限っては、ハリーにとって魔法薬学は憂鬱なだけの教科ではなかった。 「ま、嫌な教科が先に終わると思えば？」 「うわー、前向きな御意見。僕としてはスネイプが腹壊して自習になることを前向きに祈るけどね」 「それの何処が前向きなのよ」 「あー。じゃあ、フレッドとジョージを見習って、下剤でも仕込んでこようかな？」 「あの二人を見習うのは無理でしょ。ロンじゃ絶対見つかるわよ？」 「じゃ、賭ける？」 　親友二人が戯れるのを、ハリーは口を閉じて眺めていた。黙るハリーを気にした風もなく、ロンとハーマイオニーが軽口を叩き合い続けるのが耳に入ってくる。 　魔法薬学の教室の扉が見えると、ハリーの心臓が小さく跳ねた。扉を開ければ、中には彼が居る筈だ。不意に、ドラコを腕に収めた時の充足感を思い出し、ハリーは誤魔化すように咳をした。 　扉を開けると、生徒の半数が既に教室に居る様だった。ロンとハーマイオニーの後に続いて教室に入ると、ハリーはドラコの定位置である教卓の前に視線を向けた。 　見慣れた白金の髪を認め、ハリーは知らず安堵の息を吐いた。いつも通り、ドラコが背筋を伸ばし席に着いている。 　自分達の定位置である教室の中程の、ちょうど斜めになる為にドラコが見やすい位置の席に着くと、ハリーは再びドラコに視線を向けた。後ろから見る分には、彼は変わっていない様に見えた。しかし、ドラコの顔を見た瞬間、ハリーは背筋が冷えるのを感じた。心臓が早鐘を打ち始める。 　滑らかな白金の髪が緩く掛かる白い肌は、蒼白だった。遠目から見ても、彼が酷くやつれているのが判る。眩暈でも覚えたのか、彼が細く青白い手を目の上にあて俯いた。 　押し込めていた罪悪感と後悔が、再び大きく頭を擡げる。ハリーは小さく喉を鳴らした。 　―――僕は、彼に何をした？ 　羞恥に、ハリーはドラコから目を逸らした。自分は彼に酷い事をした。その上、その事を大したことではなかったと誤魔化そうとしたのだ。 　正直なところ、ハリーには何故ドラコがあそこまでやつれる程に傷付いたのかが判らなかった。寧ろ怒りの方が多いだろうと思ったのは、自分を誤魔化す為だけでもない。行為自体は初めてではないという所為もあるが、本当に彼ならそうだろうと思ったのだ。 　焦りを覚えて、ハリーは眉根を寄せて考え込んだ。扉の開く音が聞こえ、スネイプの声が聞こえてきたが、授業の内容は全く頭に入ってこなかった。 　板書する振りをしながら、ハリーは再度ドラコに視線を向けた。 　―――彼に、謝らないと。 　ハリーは焦りと共に強くそう思った。許しを請うたところで、自分の気が済むだけなのかもしれない。それでも、それ以外に自分に出来ることは思いつかなかった。 next

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