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その日から、ハリーはドラコと二人きりで話をする機会を窺った。内容を考えると、人前で出来る話ではない。魔法薬学があった日の翌日からドラコは大広間に顔を出すようになったが、なかなか声を掛ける機会は無かった。食事を終えたドラコが一人で席を立つ度に後を追おうと思うのだが、ハリーは足が竦んで動くことが出来なかった。 罵ってくれるのなら良い。怒りをぶつけてくれるのなら良い。しかし、変わらずドラコはハリーの存在に関心を払おうとはしないのだ。グリフィンドールの席に背を向け、ハリーに一瞥をくれることもない。 やつれた様子で大広間を後にするドラコを追い、許しを請う勇気はハリーにはなかった。 金曜の夜、意を決して忍びの地図を手にしたハリーは、隠し部屋にドラコの名前がないことに眉を顰めた。てっきり、ドラコは自分を見限り次の相手を探すのだろうと思っていたが、違ったのだろうか。それとも時間が早過ぎるのか……。ハリーは時計に目を向けた。 ―――もしかしたら、これから隠し部屋に行くのかもしれない。 今までなら疾うにドラコが隠し部屋にいる時間だという事実から目を背け、ハリーは透明マントを被ると寮を後にした。 緊張した足取りで、北の塔に向かう。もしかしたら、彼は来ないのかもしれない。そう思いつつ、ハリーは歩を進めていた。日に日に、罪悪感と後悔が膨れ上がっていく。声を掛けることの出来ない自分が、不甲斐なかった。 隠し部屋に辿り着くと、ハリーは部屋には入らずに扉の隣の壁に寄り掛かった。そのまま、その場にへたり込む。 ―――何処が勇猛果敢なグリフィンドールだよ。 不甲斐なさに泣きそうだった。何故あんなことをしてしまったのだろうと、再び疑問が湧いてくる。思い返してみると、どうしてあれ程まで強い衝動に駆られたのかが自分でも判らなかった。 自分を抑えることが出来ていたなら、今もあの細く頼りない身体は自分の腕の中にあったのだろうに。 ハリーは唇を噛むと、まんじりともせずにその場に長い間座り続けた。 夜が明けた頃、漸くハリーは立ち上がり、その場を後にした。 授業のない土曜日と日曜日は、ハリーがドラコを見かけることは無かった。以前なら合同の授業があろうとなかろうと目に入った彼の姿は、大広間にも何処にもなかった。 ―――彼は食事をしてるんだろうか？ ハリーは食事の手を止めて、再度スリザリンの席に視線を向けた。やはりドラコは居ない。もしかしたら、休日は普段よりも遅い時間に食事を摂るハリーとは、時間帯がずれただけかも知れない。しかし、ハリーの顔を見たくないか、もしくは食欲が湧かずに食事を抜いているという可能性も否定できない。 ドラコのやつれた顔を思い出し、ハリーは目を伏せた。 それでなくとも、腕に収めた身体は細く頼りなかったのだ。あの時以上に痩せてしまっているのだと思うと、居た堪れなかった。 「……ハリー。何か悩み事でも？」 突然掛けられた声に、ハリーは弾かれた様に顔を上げた。考え事に没頭するあまり、ロンとハーマイオニーと共に食事をしていることを忘れていた。目の前のハーマイオニーが、何処か心配そうにハリーの顔を見ていた。 「あ、いや。なんでもない。ちょっとぼーっとしてただけ……」 「そう？ 最近食欲も無いみたいだし……」 「何？ 何かあったのかい？」 ロンまでが心配そうにハリーの顔を覗き込んでくる。ハリーは誤魔化すように笑って見せたが、二人とも釈然としないようだった。 「……いつでも相談してね？」 「うん。ありがと」 ハリーが困っていることが判ったのだろう。ハーマイオニーはそういうと食事を再開した。隣に座るロンはまだ何処か不満そうだったが、少しの沈黙の後、やはり食事の手を動かし始めた。恐らく、ロンは親友なのにハリーが何も話さないことが不満なのだろう。話すわけにはいかないが、ハリーはその気使いが嬉しかった。 そう。話すわけにはいかない。二人に話して軽蔑の眼差しで見られるなど、耐えられない。ハリーは今更ながら、自分が如何に卑劣な行動をとったかを思い知らされた様な気がした。 next |