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- 君を連れて Side D - ゆっくりと目を開けると、見慣れた色が目に入った。纏まらない頭で、何かがおかしいと考える。それから僕は、ああやはり、と息を吐いた。 目に入った暗緑色はマルフォイ家にある自室の天蓋の色で、それは僕がマグル界のフラットではなく、魔法界に居ることを伝えていた。つまりは、今僕はハリーの居ないところに居るということだ。 寝台に横たわったまま軽く頭を動かすと、何も変わらない自分の寝室の様子が目に入った。ハリーと暮らしていたフラットと同程度の大きさだろうか。目を閉じて、静かな空間に耳を澄ます。重い腕を動かしても、その手が何かに当ることはなく、何の音も聞こえない。 僕はもう一度息を吐いた。 いずれこうなることは判っていた。マグル界で生きていくには僕の身体は軟弱で、覚悟を決めるには僕達には逃げ道が在り過ぎる。僕は出来る限りハリーと一緒に居たかったけれど、現実問題マグル界で死体を抱える嵌めに陥ってしまったらハリーは困るだろう。それに僕は、そんな風にハリーを残したくはない。僕自身は満足だったとしても、だ。 「……でもだからって、相談なしにいきなりは酷くないか？」 小さく呟いて、僕はもう一度溜息を零した。 「目が覚めたのね。具合はどう？」 「……母上」 扉が開く音の後に軽やかな声が聞こえた。視線を向け、母の姿を確認する。上体を起こそうとすると、途端に眩暈に襲われた。 「無理をしないで。横になっていて構いません」 そう言われて、僕はまた寝台に横になった。身体が酷く重い。自分がこんなにも弱っているとは思わなかった。横になると少し楽になり、僕は安堵の息を吐いた。 微かな衣擦れの音がして、母が寝台の横の椅子に優雅に腰を下ろす。そのまま何も言わず、母は僕の顔を眺めた。 「……すみません」 「それはどの事柄に対してかしら？」 微かに笑みを浮かべ、母が訊いてくる。 「……会話をしているのに見苦しい状態でいることに対してです」 「それだけ？」 寝台に横になったままで居ることを詫びると、すかさず母が追い討ちを掛ける。声音は軽やかで、どことなく悪戯っぽいような印象を受けた。母は一体どう思っているのだろう？ 「……それと、今も後悔していないことが申し訳ないので」 「まあ」 言って、母は鈴を転がした様な声で笑いだした。何故か母は楽しげだ。僕としては、どうにも居心地が悪い。 「空気の悪いところに長く居たのがよくなかったそうよ。お医者様の見立てでは、お薬を飲んで暫く静養すればよくなるそうです。暫くは安静にね？」 「……はい。……すみません」 母はそれ以上何も言わなかった。家を離れていた三ヶ月間についても訊かない。誰と居たのかも、何をしていたのかも。 促されて薬を飲み、寝台に横たわる。ゆったりとした睡魔に襲われて、僕は目を閉じた。無意識に動かした腕がシーツの上を滑る。違和感に、僕は微かに眉を顰めた。 手を伸ばしても彼の温もりはなく、耳を澄ましても彼の気配はない。 覚えた淋しさに、僕は諦めた様に腕の力を抜いた。 next |