こうなることは、始めから判りきったことだった。互いにそれは承知の上だったろう。 　―――彼が、後悔していなければ良いのだけれど。 　ふと浮かんだ考えに、僕は小さく首を振った。その考えは、まるでハリーを疑っているかの様だ。 「どうかしたか？」 「いいえ」 　父の声に、僕は慌てて頭を振った。考え事に没頭するあまり、自分が食事中だということを忘れていた。顔を上げると、父と母が物問いたげに自分を見ていた。 「何でもありません。……すみません。少し考え事を」 　そこまで言うと、沈黙が訪れた。元々、マルフォイ家は賑やかな家族とは言い難い。いつからか、聞かれたことに答えることでしか父との会話が成り立たなくなっていた。何を話せば良いか判らない。僕は、父を落胆させない話が判らなかった。 「……すみません。食欲がないので、先に失礼しても宜しいですか？」 　殆ど食事を口にしていなかったが、僕はそれ以上食べる気にならなかった。父が頷くのを確認すると、僕は席を立った。 　自室に戻り、ソファに凭れかかる。机の上の新聞に一瞥をくれると、僕は嘆息を漏らした。最近は、溜息ばかりだ。 　―――ハリーの消息を掴んで、それからどうすれば良いのだろう？ 　僕は唇を噛んだ。ハリーの元に行ったところで、また同じことになるだけだ。僕はマグル界では生きられない。魔法界ではハリーに自由は無い。魔法界では八方塞だったけれど、結局マグル界も同じことで……。 「どうすれば良いんだろう」 　声に出して言ってみる。けれども、それに答えがあるわけがない。もう一度溜息を吐いた瞬間、ノックの音が聞こえた。 「どうぞ」 　答えると、静かに扉が開いて母が入ってきた。 「少し良いかしら？」 「はい。勿論です」 　言って笑みを浮かべると、母が笑みを返す。それから母は僕の隣に腰を下ろした。 「いつのまにか、大きくなってしまったのね」 「……母上？」 　母の白い指が頬を撫ぜる。戸惑う僕に、母が小さく笑った。 「母さまは、ドラコの味方よ？」 「……有難うございます」 　意図が判らない。僕は戸惑いを隠せないままそう答えた。 　ホグワーツに入学する前から、僕はあまり家族と過ごしたことが無かった。父も母も忙しく、一月顔を見ないこともあったくらいで、今のように一日三回食事を共にしたことなど数える程だった。 　ハリーが例のあの人を退けたことで両親が表舞台から身を引き、家族が揃うようになったけれど、それはとても嬉しいことの筈なのだけれども、僕には戸惑うことの方が多い。 「あなた、そういうところでルシウスに似てしまったのねえ」 　言って、母がまた小さく笑う。 「あの……」 「一つだけ、良いことを教えてあげましょう。お父様はあなたを怒っているわけではないの」 「……でも」 「良く観察して、考えて御覧なさい」 　そう言って、母はまたゆっくりと僕の頬を撫でると部屋を出て行った。 　僕は途方に呉れてしまった。本当に、どうすればいいのか判らない。ハリーの事も手詰まりで、その上父と母の事も判らない。父が怒っていないのなら、父はどう思っているのだろう？ 　母の言葉の意味がわからない。僕は父の様子に気を配ってみたが、結局三日たっても何も判らなかった。気が付いたことといえば、父が僕と目を合わせないということだけだ。目が合うと、父か僕のどちらかが目を逸らす。僕は益々食欲が落ちていた。 　―――今頃、ハリーはどうしているだろう？ 　僕は唇を噛んだ。 「綺麗なお花だと思わない？」 「あ、はい」 　慌てて顔を上げると、花に囲まれた母が笑っていた。中庭の散歩に誘われて、僕は母のお供をしていたのだった。 「……お父様にも、見せてあげましょうか？」 「そうですね」 「呼んできてくれないかしら？」 「……はい」 　悪戯っぽく笑う母に、僕は首を傾げた。 next

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