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約束通り、ハリーはドラコを呼び出さなくなった。いつハリーの気が変わるだろうかと思っていたが、三週間経っても呼び出されることはなく、ハリーと視線が合うこともなかった。以前なら秘密を握っているのだと釘を刺すかの様なハリーの視線を感じたが、今はそれもない。 酷く平穏な日常に、ドラコはぼんやりと窓の外を眺めた。ハリーと関わらないだけで、日常はとても静かで、穏やかだ。そして、なにもない。 今までは奇異に見えないようにと懸命にいつも通りの自分を演じていたが、ハリーと関わらなくなってからドラコはそれも止めてしまっていた。一度だけスネイプに体調でも悪いのかと訊ねられたが、ドラコが否定するとそれ以上はなにも言われなかった。 ハリーと関わらないことはとても良いことだ、とドラコは思った。 ハリーに脅されていた状況は、父に知られたとしたら軽蔑されるに違いないものだったのだから、それがなくなったのはとても良い事だ。 大広間へと向かっていた足を止め、ドラコは窓の外に視線を止めた。 「ドラコ、お昼は？」 「いらない」 短く言葉を返し、ドラコはそのまま中庭にへと向かった。 誰も居ない中庭を、ドラコはゆっくりと歩いた。時折、強い風が吹く。肩に落ちてきた淡い色の花びらを摘むと、ドラコはそれを眺めた。何の花だろうか。中庭は、古く冷たい城内と異なり良い香りがする。 微かに表情を緩めた瞬間、指の先の花びらが風に浚われた。そこにあった筈の花弁は、瞬く間に何処かにいってしまった。 ―――例えば今、自分が居なくなったとして、誰がそれに気が付くだろう？ ドラコはゆっくりと自分の指先から視線を上げた。 ―――誰がそれを、気にするだろう。 ハリーは神出鬼没で、城内だけでなく中庭でもドラコに絡んできたことがあった。直ぐ先の木の陰でもそうだ。人目につかない場所や隠し通路を呆れるくらい知っていて、中庭で本を読んでいた筈のドラコは、手を引かれて少し歩いただけで気が付くと知らない場所に居ることも珍しくなかった。 触れた指に、酷く力が篭っていたことを覚えている。 「……何もなくなった。良い事も、悪い事も」 呟いて、それからドラコは小さく笑みを浮かべた。 良い事などなにもない。始めから、今までずっと。そして、これからも。 ルシウスから家に戻るように手紙が着いたのは、それから一月経った頃だった。 next |